19話 ※吐血しているかのような描写があります。 ページ20
三日月の目に飛び込んできたのは、重症となった和泉守だった。
おそらく、大和守に敗れてしまったのだろう。
だが、無傷のままで和泉守を負かせてしまう程、大和守は強くはなかったはずだ。
「……やはりおぬしは、大和守ではないな」
「あれ……そんなに分かりやすい？」
大和守の体を奪った何者かは、おどけたようすで首を傾げた。大和守の周りをおどろおどろしい気配が漂っていた。
三日月は、違和感を覚えた。どこかで同じような気配を感じていたような気がしたからだ。
「何が目的だ」
「さあね……何だと思う？」
三日月の問い掛けをのらりくらりと交わして、大和守は挑発めいた笑みを浮かべた。三日月を嘲笑うかのような笑みだった。
「……いい加減大和守を返せ」
和泉守が、咳き込みながら大和守を睨みつけた。床には赤い血が広がっていた。
吐血してしまうほど、和泉守の体は悲鳴をあげていた。
「だから、何のことって……」
「俺にはなぁ、お前が時間遡行軍の一人だってことは分かってんだよ！」
無理が祟ったのか、和泉守は激しく咳き込んだ。
三日月は、その場から動けなかった。頭の中に和泉守の叫びがずっと響いていたからだ。
「……なるほどなぁ」
三日月は感心したように呟いた。
確かに三日月と和泉守は、時間遡行軍の気配を知っていた。遠征へ出ていても、時間遡行軍に会わない訳ではなかったのだから。
「気配でバレるものなんだねー」
大和守……いや、時間遡行軍の一人は呑気そうにそう呟いた。その呟きは、和泉守の叫びを否定していなかった。
斬らなければ。あれは敵だ。
刀剣男士としての使命が、三日月の腕を動かした。そして自然と手に握った刀を構えていた。
しかし、三日月は刀を振るおうとはしなかった。
「……俺では、きっとあやつには敵わぬ」
三日月は、座り込みながら肩で大きく息をしている和泉守を見つめた。
和泉守は三日月を見つめていたが、何も言わなかった。
だが、視線はしっかりと合っていた。何か伝えたいのか視線を三日月の刀へと向けていた。
「勝たなくとも良い。時間を稼げ、か？」
何故かはわからない。
しかし、確かに三日月には和泉守がそう伝えたいのだと分かった。
「……あいわかった」
和泉守が力強く頷くのを確認して、三日月は一歩踏み出した。
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作者名：うたた寝する三毛猫 | 作成日時：2022年3月9日 11時
