41…T ページ41
「パパ、これだよ。」
「おおっ、どれどれー………ぁ、」
丸められた画用紙を広げて出てきた絵。
俺でもわかるよ、誰の絵か。
そっか……
「めっちゃ上手いじゃーん！飾っておこうね？絶対、喜ぶね。」
「うん……」
それは、母の日に贈る似顔絵。
画用紙いっぱいに、優しく微笑むママの顔が描かれていた。
Aちゃんはこれを学校でどんな気持ちで描いたのかな。
きっと悲しかったと思うし、辛かったよね……。
想像するだけで切なくて胸が苦しくなってしまって、俺は初めてAちゃんの前で一筋の涙を流してしまった。
「パパ、泣かないで。」
「ん、ごめんね。ありがとう。」
Aちゃんは小さな手を一生懸命伸ばして、優しく頭を撫でてくれた。
「パパも悲しくなるの……？」
「そりゃパパだって悲しくもなるし、寂しくなったりもするよ？」
「大人なのに……？」
「うん。大人でもだよ。」
「じゃあ子供はもっと泣いてもいいってこと？Aが泣いても、叩かない……？」
「悲しかったり寂しかったり、辛いことがあったら泣いていいんだよ。パパはそんなことでAちゃんを怒ったり叩いたりなんか、絶対しない！」
「うん………」
目線を合わせるように屈むと、首に腕をまわして抱きついてきた。
おねしょをしてしまった時もぶたないでと泣きながら訴えていたけれど、やっぱりAちゃんは暴力を振るわれていたんだと確信した。
パパはそんなこと絶対にしないから、安心していいよ。
背中を優しくトントンと触れていると、右肩が濡れていくのを感じた。
ずっと溜め込んでいたものがこの涙と一緒に、少しでも流れ出てくれたらと願った。
・
「Aちゃん。この絵、ママのとこに飾ってあげようね。」
「うん。」
遺影が置かれた後ろの壁に飾ってから、ふたり並んで手を合わせた。
実樹ちゃん。
今日は母の日だよ。
こんなにも心優しいAちゃんを産んでくれてありがとう。
Aちゃんと出逢わせてくれて、ありがとうね。
これからもAちゃんのことは俺がちゃんと育てるから、なにも心配いらないよ。
天国で実樹ちゃんがこの絵と同じ顔して笑ってくれているような気がした。
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作者名：にかみつば
| 作成日時：2020年10月10日 10時
