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「渚くん。お母さんから、昨日あったこと聞いたよ……。」
「そっか。」
私たちは駅までの道のりを、話しながら歩いた。
「傷、痛くない？殴られたのは、口元だけ？」
「腹も……やられた、かな。」
「ちゃんと手当てした？」
「いや、してない。みてないや。」
そういうと渚くんはおもむろにTシャツを捲り上げて、自分のお腹を確認し出した。
「ぁっ、こんなとこで……！」
「うわ、くそっ。痣になってんじゃん。通りで痛いわけだ。」
「えっ、大変！手当てしないと！」
「ははっ、別にこんくらい平気だって。」
「ダメだよ。」
途中、コンビニへ寄って湿布を買った。
大袈裟だという渚くんを無視して、コンビニ脇に連れて行って箱から湿布を一枚取り出した。
「こんな場所で申し訳ないんだけど、少しだけお腹出してもらってもいい？」
「いやん。Aのえっちー！」
「違っ！もう、やめてよぉ！」
「んははっ！顔赤くなってんじゃん。」
「もう。ほら、冷たいけど我慢してね？」
「はーい。」
痣になっている上腹部にぺたりと湿布を貼ると、冷たかったせいか渚くんは小さく呻いた。
「はい、もういいよ。」
「ん、ありがと……。」
再び歩き出した私たちは、何故だか再び手を繋いでいた。
今の渚くんは弱っているのだと感じた。
「なぁ、これから戻って勉強すんの？」
「遅くなっちゃったから、今日はやめておこう？また、来週ね。」
「俺さ、あの家に帰るのやなんだけど……」
渚くんは俯くとその場で立ち止まってしまった。
「だけど、お母さん心配してたよ？」
「どうせ俺の心配じゃなくて、あいつの機嫌が悪くなるから心配してるだけだろ。」
「そんなこと………」
ないって断言した言葉を私は言ってあげられなかった。
そんなその場凌ぎの優しい言葉は、余りにも無責任な気がしたから。
お母さんの話を聞いて、私も少しだけそう感じてしまったし、今までも渚くんは色んなことを我慢して耐えてきたんじゃないかと思った。
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作者名：にかみつば
| 作成日時：2020年12月9日 18時
