ひみつな恋 ⑥ (ページ26)

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遂に宏くんたちの夏のツアーが始まった。

初日は新潟からスタートして、今日は朝早くから北海道へと飛び立って行った。

地方でのコンサートは泊まりが多いらしいけれど、宏くんは必ず連絡するからねと言ってくれて、私たちはいつものように、“またすぐ会おうね”と言い合って朝早くに宏くんちで別れた。

家に帰ると新聞を読んでいたヒロちゃんが声をかけてきた。

「おかえり。随分と早い時間に帰宅なんだな。なんかあった？」

「ちがうよ？ただ朝早くから仕事だから帰ってきたんだよ。」

「へー、そうなんだ。A、今日は？」

「今日から家庭教師のバイトだよ。」

「あー、そっか。」

昨日ちゃんと伝えたのにすっかり忘れていたらしいヒロちゃんは、私に代わって夕食を作ってくれると言いだした。

「ヒロちゃん、ありがとう。」

「なぁ、A。なんで急にまたバイト始めんの？なんか欲しいもんでもあるならヒロちゃんが買ってあげるって言ってるべ？」

「別に欲しいものはないよ。ただ、お金貯めたいの。」

「なんで？」

ずっと黙っていたけれど、いい機会だからこの際ヒロちゃんに話してしまおうと思った。

「あのね……私……一人暮らし、したいの。」

「……え、なんで？」

「私ももう社会人になるんだよ？ねぇ、ヒロちゃん。結婚、しないの？」

「けっ…結婚！？」

「そう。私、ヒロちゃんには幸せになってもらいたい。それにずっと待っててくれてる彼女のことも幸せにしてあげて欲しい。」

「もお、なんだよ、それ。朝からヒロちゃんのこと、泣かせる気？」

「ふふっ、そんなんじゃないよぉ。」

ヒロちゃんは目尻に溜まった涙を雑に拭って、私を見つめた。

「ありがと、A。でもさ、一人暮らしは心配だなぁ。家事はできても世間知らずなとこあるし、今よりヒロちゃんの心配事が増えちゃうよ。」

「そんなことないよ。私、ヒロちゃんが思ってるよりしっかりしてるよ？」

「うちの隣とかで一人暮らしなら安心なんだけどなぁ。」

「あははっ。ファミリー向けのマンションで一人暮らしなんて出来ないよぉ。」

ヒロちゃん。

私もう21歳になったんだよ？

きっとヒロちゃんの中での私って、いくつになっても小さな妹のままなのかな。