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まさか彼氏にされていたなんて予想外だ。
「…もっかい言ってみ？」
「だから、お兄ちゃん」
「すげぇイケメンて噂だった」
「まぁ妹の私が言うのもなんだけど、確かに顔は良いよ」
「黒のワンボックスの」
「うん。うちの車。なんならまだそれだから、疑うなら見に来て良いよ」
だいたい私が自分の席でただひたすら本を読んでいたのは田中くんだって知っているのに。
そんな私に車で迎えに来てくれる彼氏なんかいるはずないの考えればわかりそうなのに。
驚き過ぎじゃないかと思う。
「……マジ？」
「マジ」
「はぁぁ…噂って怖ぇ」
「私の台詞だよ」
「樹、やってんね」
盛大な溜息を吐き出した田中くんに、京本さんがくくく、と喉を鳴らした。
私はといえば、高校時代知らないうちに立てられた唯一の噂話の相手がお兄ちゃんだったなんて、なんだか凄く深傷を負わされた気分。
飲みかけのグラスに手を伸ばして、ちびりと口を付けて、気持ちを落ち着かせる。
「えー、じゃあ今は？」
そんな私の傷をますます抉ろうとするような質問を口にしたのは京本さんだった。
にっこりと綺麗な笑みを浮かべる京本さんには、もちろん悪気はない。
「今はいないよ」
答えたのは何故か山田さん。
ニコニコしちゃって、また余計な事言い出しそうだ。
「山田さん、余計な事はもう言っちゃダメです」
「言わないよ？少し前に浮気されて別れたなんて言わないよ？」
「…言ったよ。言っちゃったよ」
「朝までヤケ酒してベロンベロンだったなんて絶対言わないよ？」
「もー！山田さん！！ていうか私の話はもう良いです！そういう山田さんはどうなんですか？！高校時代！田中くんとか京本さんは彼女の1人や2人いるんでしょうね！」
「それこそ私の学生時代の話なんて盛り上がらないから。ねぇ京本くん？」
「そんな事はないですけど、Aちゃんの話は興味あるんじゃない？樹が」
「まぁまぁ」
「ちなみに、俺は今フリー」
「俺も。てかいたら誘ってなくね？」
「いても誘ってそう！！」
「心外だなぁ」
再びおかしそうに喉を鳴らす京本さん。
田中くんが"松村さんて思ったよりしゃべんのな"と関係ない事をこぼして頬を緩めた。
「松村ちゃんは人見知りなのよ。私も仲良く話してくれるの1年掛かったから」
そんな田中くんに、山田さんがまた1つ勝手に個人情報を漏らした。
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作者名：メロン | 作成日時：2023年6月4日 20時
