故意じゃないほうがいい (ページ2)

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大学進学と当時に私は東京から大学のある大阪へと引っ越し、親元を離れ一人暮らしをはじめた。
大学から少し離れているけど家賃は安くてそのわりにはキレイ。立地も悪くなくて隠れた優良物件。

わたしはそんなアパートで、大学1年から就職をし大阪を後にし東京に戻るまでの大学4年までの4年間を過ごした。

そのアパートのそばには古風な、味のある居酒屋があった。

わたしはその居酒屋が好きだった。
店主のおばちゃんが本当の母親みたいで、1年の頃はそれまで親元を離れたこともなかったわたしは母親恋しさにそのおばちゃんを自分の母親に重ね、毎日のように飲みに行っていた。

はじめて酒を飲んだのもこの店で、だった。
はじめてで調整が効かなくてべろべろに酔ってしまった私と、当時の友人を呆れながらも介抱してくれたのもそのおばちゃんだった。

だからそのおばちゃん、はいつしか私にとって本当のお母さんのように思えていて、あの居酒屋は実家のように思えていた。

大阪に来てから1年。2年になった直後、の春。
おばちゃんと従業員と近くの大学のバイト、それだけで構成されていたアットホームなあの居酒屋に、
バイトが１人やってきた。

「あーちょっと待ってAちゃん。言うの忘れとったんやけどねえ、今週から新しくバイトの子に来てもらっててさ」

おばちゃんがそう言ってバックヤードから手招きで表に連れてきたのが、「彼」で、それが、彼との初対面だった。

おばちゃんに招かれるままに小走りでやってきた小柄な彼が少し居心地悪そうに目線を横へと動かして、それから顔にかかった髪の毛を頭を動かして振り落とした。

ふわふわとした無造作な黒髪が居酒屋のキラキラ光る照明に照らされて綺麗な粒子を作っていた。くっきりとした二重まぶたの大きな目が一瞬私を見たような気がした。それで、かすかに香るタバコのかおりがなんだか懐かしいと思った。

昼よりも夜のほうがテンションが高そう。音楽はスマホで聞くよりcdとか、ラジオで聞くのが似合う。誠実さとか、真面目さとか、そういうものはどっかに捨ててそう。
ようするに、彼は私のドタイプだった。

一目惚れなんかする人間を鼻で笑っていた。馬鹿だと思っていた。中身を知りもしないのに、外見で物事を決める馬鹿だと思っていた。ぜったい口には出さないけど。でも、心のどこかで笑っていた。ただの馬鹿だと。

そのとき一目惚れは顔が好きとかそういうんじゃなくて、もっと深いところにあるのだと知った。