【luz】あのさ。【歌い手】

55,ごめん ページ24

いつの間にか、
私の目からは涙が溢れていた。

本日2度目、だろうか。

制服の裾で、
乱暴に目を擦って
嗚咽を漏らして息苦しくなって。

彼は、
私のこんな姿を見て
今、何を思っているのだろう。

なんて思っていると、
いつの間にか、私は彼の胸の中にいた。

その中は暖かくて、
久しぶりの感じにまた涙が出そうで。

いや、
出てるんだけど。

懐かしいな、
この香水の匂いとかさ。

初めて光の家に行った時とか、
好きって言ったこととか。

走馬灯のように、
ゆっくりと、彼との思い出が
私の頭の中を流れていく。

なんで帰るの？

何で行っちゃうの？

子供のように、
私の頭の中はそれでいっぱい。

まるで、
捨てられる子供みたいに。

それが嫌で、
泣いて喚いて苦しくて。

光には、
煩わしく感じられているだろうか。

でも、
仮にそう思っていたとしたら
私を抱き締めるなんてことはしないだろう。

ただ、
優しく私を包んだ。

もう、
全てどうでもよくなる感じがして。

このまま時が止まればいいのに。

そしたら、
私と光はずっと一緒に居られるのに。

でも、
そんなの無理だから。

時間は、
私達を……いや。

私を待ってくれないから。

光は行かなきゃいけないんだ。

さっきの私の言葉に、
気持ちが揺らいでいなければ
彼はもうあっちに行ってしまう。

「A」

私を呼んだ。

その声が、
なんだか震えてる気がして。

泣いてるのかな、
なんて思ったけど
抱き締められているんだ。顔なんて見えるわけない。

「…ごめん」

そんな言葉。

でも、
私には『ごめん』の意味が
理解できなかった。

それは、
私に謝って、“行かないよ”っていうごめんなのか。

それとも、
私の言葉には答えられないごめんなのか。

生憎、
私は頭が特別いいわけじゃない。

分かんないよ。

なんて思っていると、
彼が私を離して、教室を出た。

もう、
訳分かんないよ。

独り取り残されて、
私はどうすればいいの？

彼を追えばいい？

でも、
そんな気力はない。

ねぇ。









“ごめん”の意味、
教えてください。

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