それはビター ページ31
「まーじで何も知らなすぎ！
ボール蹴ってるだけだと思ってたとかさ
ありえないから」
「ええ？違うの？」
Aがあまりにもサッカーに無知すぎてジェシーがサッカーのルールをご丁寧に俺を挟んで説明してるのに
当の本人は笑いながらジェシーの説明に相打ちを打ちお菓子を食べている
「聞いてないっしょ！」
ジェシーが大きな声を出すとAは声を出して笑いながら聞いてるよ聞いてるなんて言っていてジェシーはもう知らないからとプンプンしながら試合を見ている
『Aが悪いね』
「ええ〜
ほくちゃんまでそんなこと言わないでよ
ねっこれ美味しいよ」
Aは食べていたチョコを一粒掴むと俺の顔の前に持ってくる
『は？』
「ん？食べてみて」
完璧に俺は彼女の手のひらで転がされていて
でもそれが計算じゃないからどうしていいか分からなくなる
黙って口を開いた俺の口にチョコを放り込むと
「ほくちゃんは私に甘いからね」
最近よく口にする言葉をAは呟いてにこっと笑った
口の中で広がるのは少しビターなチョコの香りで
まるで今の俺の気持ちみたいだ
『餌付けなんてしなくても俺はAには特別甘いよ』
試合を真っ直ぐ見つめて呟いたのは彼女の顔を見る勇気がなかったから
「私なんて勿体無いよ」
凄く小さいAの声は俺の耳に入ってきた
でもそれを聞こえないふりして反応しなかったのは口を開くときっとまた彼女を困らせてしまうと思ったから
「こっちまで苦しいわ」
俺にだけ聞こえるように真っ直ぐ試合を見ながら呟いたジェシーの言葉に
溢れ出そうになるAへの気持ちを隠すように
ただボールだけを見つめたんだ
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作者名：むぅ
| 作成日時：2018年4月5日 1時
