Dream 13 ページ13
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「おじょーさん、帰りますよ」
「……わかった、わかったから離れて」
「そう言われましてもねー、」
帰宅ラッシュが落ち着いて、夜の街がにぎやかになり始める時間。
飲みにしては早い解散時刻。
強引で自分の流れに人を乗せるのが上手い黒尾くんのことだ。
もう1軒連れていかれるのかと思ったが、予想は外れて。
気づけば、黒尾くんに支えられながら駅のある方面に向かって歩いていた。
「支えてないとあなた歩けないでしょ」
「……歩ける」
「全体重こちらに預けながら言われても説得力ないんですけど」
腕を軽く引っ張られている感覚があることから黒尾くんの言う通り、私は今、真っ直ぐ歩けていないのだろう。
ここまで酔っぱらったのは久々で、少し進んでは止まっての繰り返し。
今、どのぐらい歩いたのかさえよくわからなかった。
「……本当に大丈夫だから、離して」
今の状態では自立して歩けないとわかっているのに、何でか言葉では抗いたくて。
「意地っ張りなお嬢さんなこと」
「……だって、」
「僕酔っ払いに手出すような悪い男がじゃないから安心してくださいな」
「…嘘つかないで」
「……」
誠実、なんて言葉似合いそうにない詐欺師の返答はなく。
ただ腕を引っ張られ、歩き続ける。
………黒尾くんはどこまでもずるい男だ。
肝心なところで何も言わない。
居酒屋で立ち上がった瞬間、飲みすぎたと思った。
表向きでは黒尾くんに合わせるフリをして飲むスピードを故意的に自分で速めたのも分かっていた。
察しのいい黒尾くんが止めに入らなかったことを考えると、きっとこの詐欺師も私のわざとさに気づいている。
逃げられないなら、いっその事、独特の苦さがもたらす夢として片付けたかった。
「……そら、まー、正直言えば、何するか分かんないってところかな」
「……ほら、やっぱり」
「すべては阿川さん次第ですけど、ね？」
足を止めて、こちらを覗き込む。
全てを分かった上でこちら側に委ねるスタンスでいる意地悪な笑みに、また動揺して。
はやく夢のような現実に解放されたいのに、その胡散臭さに舞い上がりそうで。
何が夢で、何を現実として捉えているのか。
自分でもよく分からない。
「……ごめんごめん、怖がらせるつもりじゃなかった。
大丈夫。何もしない。ちゃんと駅まで送るから」
安心して、と言って歩き出す。
本当に、黒尾くんはずるい人だ。
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作者名：倫 | 作成日時：2023年6月30日 15時
