泣いてるみたいに笑うなら ページ20
自分がどんな顔したかはわからない。
近過ぎる距離で止まってわたしを見ていたキヨくんは小さく溜息を吐いてからソファの定位置へと戻っていった。
「Aは俺のこと好き？」
ホッとひと安心したのも束の間、そんなことを聞かれて「え」とだけ返事して思考も行動も一時停止した。
キヨくんは質問に対しての答えを待っているようで距離は離れたものの先程と同じような瞳でわたしを見つめている。
キヨくんのこと好きか嫌いかで言ったら、そりゃ、好きだ。
動画の中のキヨくんも好きだし、偶然とは言え彼氏の振りまで買って出てくれて面倒な会社までの送り迎えも律儀にやってくれる優しさを見せられれば好きになるのは当たり前のことではないだろうか。
それが例え友愛としての好きだとしても、だ。
「す……すきですよ」
「ちゃんと？……ちゃんと好き？」
わたしの言葉を聞くと変な言葉で念押ししてきたキヨくんはわたしの膝に自分の手の平を乗せてきた。
驚いたのはタイツの上からでもわかるほど手の平が冷たい、ありえないほどその手の平によって体温が奪われていくのがわかる。
「ちゃんと……って」
「言い方変えて欲しい？」
今のキヨくんはわたしの知ってるキヨくんではなかった。
視線を動かすことを許さない瞳も、身体の動きを止めるほどの手の平も、彼の纏う空気感全てが酷く冷たかった。
それなのに発する声は柔らかくわたしを包み込む。
「俺と一緒に死ねるくらい好き？」
それまで真顔だったキヨくんはわざとらしく眉を八の字に下げてから口元だけニッコリと微笑んだ。
言われた言葉の意味がわからず動揺した顔になったのが今度はわかる。
��死ぬほど好き〜♡��などと言う揶揄表現ではないことも理解しているがそもそも好きの種類も正確に把握していないわたしには何も答えることが出来なかった。
それでもこんなに冷たいキヨくんに対して誤魔化しのような返答をする気になれなかったのはどこか助けを求めてるような気がしたからだった。
新入社員として今の部署に配属されて疲弊した精神を毎日削られ続けてそれでも今の仕事を続けていられるのはキヨくんの動画があったからだ。
そうやって助けてくれた彼に対して不誠実なことはしたくなかった。
「死ねるかはわからないけど、隣で歩み続けたいくらいには好きです」
彼氏の振りをしてくれたキヨくんとの関係はいつか終わる。
いつかはわからない、それはもしかしたら遠い未来か、あるいは──────今かもしれない。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 433人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
なみの - えっ！？返信ありがとうございます・・過去作なので返して頂けるとは思ってませんでした。 (11月5日 13時) (
レス) id: 20a9a81cbb (このIDを非表示/違反報告)
luco(プロフ) - なみのさん» コメントありがとうございます。ヤンデレと言うより情緒不安定なだけのメンヘラになっちゃったような気もするのですが…エモ感じて頂けて何よりです！ (11月2日 8時) (レス) id: 4134a90f62 (このIDを非表示/違反報告)
なみの - ヤンデレキヨさん最高でした。エモ過ぎて泣いちゃった・・・ (10月15日 3時) (レス) @page50 id: 20a9a81cbb (このIDを非表示/違反報告)
なみの - 末永くお幸せにいいいいいいい((殴 (10月15日 3時) (レス) @page50 id: 20a9a81cbb (このIDを非表示/違反報告)
luco(プロフ) - 赤の黒犬さん» コメント通知が死んでいて気付かずレスがかなり遅くなり申し訳ありません。感想コメントとても嬉しかったです。後半ネタばらしは最初から決めていたのですが私も書いてて楽しかったです。私がメンヘラヨさんを書くにあたって気にした点を全て気付いてくださり嬉しいです (2022年10月2日 22時) (レス) id: 4134a90f62 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：luco
| 作成日時：2019年10月14日 7時
