【実l況l者】さぁ、どんなオレに夢みてる？【ky】

光に照らされても暗い瞳 ページ12

仕事をしながら一旦冷静に考えてみるとやっぱりこの状況はキヨくんにとって無駄な時間浪費だ。
それ故に丁重に彼氏の振りをお断りしようと心に決めた。
キヨくんも動画撮ったり投稿したりイベントの準備で忙しいだろう。
今朝の嬉しそうな顔がもう見られなくなるのは少し残念だけどキヨくんの為だ。
そう思いながらも残業で本日の業務を全て片付けた。
優秀、誰かに褒められたい。
こういう時ほど彼氏が欲しいと思ったことはない。
無条件に優しくされたい。

けど、今は、

「おつかれさま」

会社まで迎えに来てくれる彼氏(仮)がいる。

会話が変な方向に行ってきちんとお断りが出来なくなるのだけが不安材料だった為、ぺこと頭を下げた。
謝る為の姿勢だったのにぽんと下げた頭に手を置かれた。

「偉い、偉い」

髪が乱れるのを気遣いながらゆったりと頭を撫でる感触に涙が出そうになった。
こうやって褒められることなんて何年ぶりだろう。
新入社員として働いてきて半年強、怒鳴り飛ばされるだけの毎日の心にはそれがとんでもなく嬉しかった。

「キ、キヨくん！」
「ん？どした？」

言わなきゃ、優しいキヨくんの重荷になりたくない。

「彼氏の振りしんどくないですか？何なら同僚とかに送り迎え頼むのも手かなっておもっ……」
「それって今朝の男？」
「えっ……えっと、まあ、アイツでもいいですし他の人でも」

光の加減なのかさっきより瞳が暗いキヨくんはそっとわたしの手を握った。

「俺といるのが嫌？どんなオレならいい？」
「嫌ってことはないで、す」
「優しくしたつもりだったけどだめだった？」
「えっ、やさ、優しいです、本当に、」

勘違いしそうなくらいにと言う言葉は飲み込んだ。
キヨくんは握った手の甲を親指で撫でると目線をわたしの目の高さに合わせてきた。

「大丈夫、Aは何も心配することない」
「……う、うん」
「それとも俺じゃなくてあの男がいいの？」

握られた手を力強く握られて「い、いたい」と言うと「答えて」と聞いたことない低い声を出したキヨくんに首をぶんぶんと横に振ると力を緩めてくれた。
片手だけ繋いだ手はそのままにもう片方の手でデコピンされた。

「変なこと言った罰ね」
「デコピン強いのにあんま痛くないね」
「そりゃ、恋人だからね？」

家の前に着くとよく見えないけど人影のようなものが見えてまだ拭いきれていない恐怖のせいでキヨくんの腕にしがみつくとキヨくんは大丈夫と言ってさっきよりも優しく頭を撫でてくれた。

甘くて苦いが交錯している→←心配性な恋人(仮)

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