ただ、ひたすらに、だきしめたい ページ32
プライベートでは人見知りなのか、あやちゃんに背中を軽く押されても座ろうとしない。
様子が少し変だな、と立ち上がって声をかけようとしたら俺にだけ聞こえる小さな震える声で「お、おもいだしましたか?」と聞いてきた。
バッと顔を覗き込むと瞳から今にも流れ出しそうな雫が今か今かと涙袋で順番待ちをしていた。
いつも笑顔のA、もう笑顔は作れなくなっていて今にも泣き崩れそうだった。
ああ……抱きしめてぇ。
頭を撫でて、「大丈夫」と言ってやりたい。
何がそんな不安なんだよ、俺がAとのこと思い出すことの何がそんなに……遠慮がちだけどそれでも強く腕を掴んでAを先に部屋の外に出した。
「ちょっとイチャついてくるわ」
眉を下げて俺もあまりやったことない作り笑顔をするとレトさんは「ごゆっくり」と言ってそんな俺達に気遣って知らない振りして話してる3人の話題の中に入って行った。
外に連れ出しても何も言わないAに「ちょっと落ち着いて話そ、俺の部屋とか」とおちゃらけて言うと「来客とのお話は基本的にロビーにてお願いしておりますのでお部屋に入られるのはチェックインしたご本人様のみです」と仕事モードのAが顔を出した。
「泣いてても仕事はちゃんとすんだな」
「すみません……最近疲れてたのもあって意味もなく泣いちゃいました」
意味なく泣くはずねぇだろ、とは思ったけど寝不足だって言ってたし「いま」じゃない。
今すぐにでもちゃんと思い出した、ありがとう、昔も今も変わらないAの優しさが、好きだと伝えて思いっきり抱き締めてやりたい。
だけど、どう考えても「いま」じゃない。
「話します?ホテルのロビーなら……」
「まあ、仕方ない、か」
いつも思うけどここのロビーはあまり人はいない。ゆっくりと座ったAは「え……っと」と言葉を探していた。
目の下は赤いものの、泣き止んでいた。
俺はまだ頬に残ってる雫を親指で拭うついでにAの頬に触れて極力明るく笑いかけた。
「とにかく話したいことはあるし、あるだろうけど、きょうはケーキでも食お」
「ケ、ケーキ、ですか?」
「嫌い?」
「だ、だいすきですけど……」
「駅前にケーキ屋あんじゃん、あそこ行こうよ」
財布を出してニッと歯を出して笑うと、やっとふわっと笑ったAは「奢りですか?」と言いながら傍らに置いてあった自分の財布を手に取った。
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なみの - とっても面白いですね( ´∀`)相変わらずの天才っぷり・・さすがです!毎回素敵なお話ありがとうございます(≧∀≦) (11月5日 13時) (レス) id: 20a9a81cbb (このIDを非表示/違反報告)
luco(プロフ) - 赤の黒犬さん» これは完全に動画内のヨさんのテンションで書いてたので反応どうかなと思っていたので好きと言って頂けて良かったです。たくさんの作品にコメント本当にありがとうございます。レスが遅くなりましたが毎回見て元気を貰ってます! (2021年8月18日 0時) (レス) id: 2a3978e9c4 (このIDを非表示/違反報告)
赤の黒犬 - キヨさんの嫉妬とか御馳走様過ぎる。キヨさんが元々レトさんに憧れていた節があったからこそキヨさんの嫉妬って映えると思ってニヤニヤしてました。キヨさんがドルヲタとか女優ヲタとして動画内で喋っているテンションで恋して、本人っぽさが倍増するのも好きです。 (2021年8月9日 2時) (レス) id: d5158b45c8 (このIDを非表示/違反報告)
luco(プロフ) - siratama〇さん» siratama〇様、コメントありがとうございます!初の学パロ以外での長編ですので読者の方の反応が気になっていたのですが好みと言って下さりとても安心しました。そして長編に対しての励ましのお言葉もありがとうございます!とても嬉しいです。頑張ります! (2019年3月9日 22時) (レス) id: 2a3978e9c4 (このIDを非表示/違反報告)
siratama〇(プロフ) - 好みof好みです。長編苦手だと仰りますが胸を張って得意だと叫べるレベルで素晴らしいです。素敵なお話ばかりで読むのが楽しみの1つになっています。ずっと応援しております、頑張って下さい! (2019年3月9日 20時) (レス) id: 1503b2e324 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:luco | 作成日時:2019年3月7日 1時