第17話 ページ9
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小瀧さんとの約束の時間は午後6時だというのに、
朝からソワソワしてずっと落ち着かなかった。
落ち着かなかったので、部屋の掃除をしたり、腹筋をしてみたり、録画を見てみたりするが、時間が経つのが遅い。
「ゆり〜。お母さん買い物いってくるけんね。
晩ご飯なにがいい?」
「あ、ごめんわたし今日いらんにー。」
「あらそ?…デート?」
「……ええが、なんでも」
ニヤニヤしながら聞いてくるから、ついぶっきらぼうに答える。
楽しみねぇ〜なんて言いながら、お母さんのニヤけ顔がドアの向こうに消えていった。
「ハァ…わたしもそろそろ出かける準備しなきゃ。」
ずっと家の中だったので、いまだにスッピン。
今井様から借りた、顔に蒸気あてるやつをやって、いつもより念入りに下地づくりをした。
悩み抜いた末に決めた服は、トップスは紺の地に白いドット柄の半袖ブラウス。
普段は窮屈な格好が苦手でゆるいシルエットのものが多いが、今日は細身のデニムをボトムに合わせた。
鏡で最終確認をしながら、いい感じにお腹が空いてきたなぁと思っていると、スマホが振動してメッセージの受信を知らせる。
小瀧さんからだ。
__“お腹すきました”
__“早く会いたいです”
ああ。
見える。あのパピーアイが。
「……チーク、盛りすぎたかな…」
茶色いレザーの小さなショルダーバッグをかけて部屋を出る。
リビングのソファで寝転がって新聞を読んでいるお父さんの前を横切って玄関へ。
「いってきまーす」
履き慣れたスニーカーを靴箱にしまって、赤いころんとしたバレエシューズを履いた。
小瀧さんからのメッセージには、
駅へ向かう道中やっと “私もです” とだけ返した。
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待ち合わせ場所に着くと、遠くからでも目立つ長身が目に入る。
小瀧さんもすぐにわたしを見つけてくれて、ぱっと笑顔になって歩み寄ってきた。
「こんばんわ。ゆりさん。」
「こ、こんばんわ」
いやにぎこちない挨拶。
普段と雰囲気の違う小瀧さんに戸惑ってしまった。
いつものオフィスカジュアルではないが、ストリート系っていうのかな。
オシャレ大学生みたい。
「んふふふ」
「?」
「ゆりさん、今日もかわいいす」
…もう、観念しなきゃ。
今日はわたしも素直になると、
そう決めた。
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るーちょ(プロフ) - まっちゃさん» コメントありがとうございます!応援いただきとても励みになります(T-T)最終話までぜひお付き合いください。 (2019年7月19日 20時) (レス) id: 5adc9338ef (このIDを非表示/違反報告)
まっちゃ(プロフ) - とても面白いです! 応援してます! (2019年7月19日 6時) (レス) id: 622cccb941 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Lucio | 作成日時:2019年7月8日 18時