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雨が、やむまで……。
藤ヶ谷は、確かにそう言った。
バカな。
そんなことを言うわけがないと、そう思って。
でも、目の前にいる藤ヶ谷は現実で。
バカなのは、俺だ。
そんなことでも嬉しくなってしまう俺の……さもしい心だ。
「ありがとな。でももう濡れてるし急いでるから。」
俺は、早口で捲し立てるように言葉を吐いて、藤ヶ谷の横を通り過ぎようとした。
したんだ、確かに。
その瞬間。
捕まれた手首。
それが、藤ヶ谷の手だと認識したと同時に、一気に心が沸騰する。
冷たい手。
懐かしい手。
その温度。
その感触。
この冷たい手が俺に触れて、じわじわと俺の体温が移って温まっていくのが好きだった事を無駄に思い出して。
「……傘、差していけば……?」
そうして、捕まれた手に無理矢理押し付けられる傘。
「っ、離せっ!!!」
声と共に力いっぱい振り払った手。
放り投げた傘が宙を舞って。
雨に叩き付けられるように逆さまに転がった。
手首に残る感触の余韻を、何度か握り締めるようにして意識して消した。
ゆっくりと呼吸を繰り返し、頭を振る。
思い出に胸を掻き毟られる気持ちになるのは別に初めてじゃないけど。
これ以上は危険だ。
凍らせたはずのものが、本当に融解してしまう。
俺は知ってる。
自分の女々しさも、弱さも脆さも。
明確な線を引け。
入ってくんなよ、もう。
藤ヶ谷は、俺の心を掻き乱す。
だから。
「もう、違うだろ?」
オマエの心は。
上手く笑えているだろうか。
声は震えていないか。
オマエが言ったんだ。
もう、違うと。
だから。
俺の言葉にグッと藤ヶ谷の眉間に皺が寄る。
静かに降り注ぐ冷たい雨。
ぐっしょりとずぶ濡れの俺と、強い雨に打たれて濡れていく藤ヶ谷。
その隙間は本当に数メートルだ。
けれど。
心は、呆れるほど遠い。
近くて遠い藤ヶ谷。
「……じゃあな。」
「…………。」
気持ちが残っていなければ、もっと上手く交わせたかもしれない。
緩やかに笑って避けられたかもしれない。
でも無理だ。
これ以上は、俺が耐えられない。
雨音に混じって聞こえた俺を呼ぶ声は、きっと俺の都合のいい幻聴で。
それに自嘲の笑みを浮かべながら。
振り返ることなく城への道のりを進む。
視界の端に写った逆さまの傘には、雨水が溜まり始めていた。
空の闇を溶かしたような灰色の雨が。
頬を濡らす雨だけが、やけに温かい。
冷えた全身に、そこだけが温かくて。
痛い─────────。
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流華(プロフ) - 充瑠さん» 充瑠さーん♪お久しぶりでーす♪♪わぉ、ロケ地に行かれたんですか!?羨ましいー( ☆∀☆)私も行きたいなぁ。頑張って更新していきますねー♪ヽ(´▽`)/ (2018年10月26日 13時) (レス) id: b5b973b1e3 (このIDを非表示/違反報告)
流華(プロフ) - ここさん» ここさん、こんにちは。コメントありがとうございます♪藤北さん……拗れてまさからね(笑)どうなることか(^_^;)頑張りますので、今後もよろしくお願いいたしまーす(*´∀`)♪ (2018年10月26日 13時) (レス) id: b5b973b1e3 (このIDを非表示/違反報告)
流華(プロフ) - 椿さん» 椿姫……(笑)喜びの舞だったり、机の角で頭ぶつけたりと忙しいな(笑)ああ、卓袱台返しの準備もするんだっけ?(笑) (2018年10月26日 13時) (レス) id: b5b973b1e3 (このIDを非表示/違反報告)
流華(プロフ) - SIZUKUさん» SIZUKUさーん♪♪いつも、ありがとうございますー♪ヽ(´▽`)/ゆっくり進んでます(笑)そうです、お墓ですよ。あれが、誰のお墓なのか…。ポイントですね、それ(笑)伏線……回収出来るはずです(たぶん/笑) (2018年10月26日 13時) (レス) id: b5b973b1e3 (このIDを非表示/違反報告)
充瑠(プロフ) - 流華さーん!!お久しぶりです。いよいよですね!実はこの夏に、ロケ地に行ってきまして。まだ記憶も鮮明なので、今後が楽しみです^^いつまでも待ちますー (2018年10月21日 0時) (レス) id: 5cca4c3768 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:流華 | 作成日時:2018年6月8日 11時