※ ページ12
.
事後処理を終えて、俺は後輩と別れて白い鉄柵門の中へと入った。
一般の民には難しくても、歌うたいの名を出せばその中へと入るのは容易なことだった。
歴代皇帝の眠る霊廟の庭。
緑の木々は、あの日と何ら変わらずそこにあった。
差し込む木漏れ日の色さえも。
ここに、置いていけないかと思った想い。
それは今も変わらず、胸の奥にある。
捨てることも置いていくことも出来ず、かといって吐き出すことも出来ない想い。
5年の月日の中でも想いは色褪せることなく、凍ったままにただそこにある。
時間は、何の効力も持たなかった。
俺は、5年前と同じ樹の根に腰を下ろした。
目に映る緑。
碧様を初めとする緑の歌うたい達が端正込めて育てる美しき深緑。
吸い込む空気さえもが色付いているような。
思い返すのは、やはりあの日の学舎の中庭で。
────きたーま……
俺はぎゅっと目を閉じて、歯を食いしばる。
これまで何度も、藤ヶ谷には名前を呼ばれてきた。
笑いながら。
呆れながら。
怒りながら。
泣きながら。
藤ヶ谷は俺の名前を呼んだ。
────あはは。きたーま、これ見て♪♪
────もー、きたーま。なにやってんの……
────きたーま!!!聞いてるっ!?
────きたーま……俺……
────きたーま……
記憶の中の声が胸に甦る。
耳の奥に聞こえる藤ヶ谷の声。
閉じた目の奥に浮かぶ藤ヶ谷の表情。
その色さえも。
思い返してしまえば、それは留まることを知らない。
喉が詰まる。
息ができない。
静かに湧き上がる想いが抑えきれない。
どうして耐えられるのか。
他の奴はどうして耐えられるのか。
胸の内に。
これほどまでに愛しいものを抱いて。
そして、それを失って。
どうして叫ばずにいられるのか。
胸が張り裂けるような痛みを感じる。
溢れて。
ここへ来ると、どうしても凍り付いた想いが溶ける。
記憶の中で微笑む藤ヶ谷。
その存在は俺の心を満たし、更に。それ以上に。
哀しみを生む。
ああ、俺は……藤ヶ谷のことになると、こんなにも女々しい。
永遠に叶わない願いを抱き続けることと、絶望は何が違うのか?
俺は樹の幹に身体を預けながら光に透ける幻が見える気がした。
俺は手を伸ばす。
決して、もう触れることの出来ないその頬に。
当然の如く、すり抜ける幻。
俺の頬を一筋……涙が伝った。
296人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「Kis-My-Ft2」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
流華(プロフ) - 充瑠さん» 充瑠さーん♪お久しぶりでーす♪♪わぉ、ロケ地に行かれたんですか!?羨ましいー( ☆∀☆)私も行きたいなぁ。頑張って更新していきますねー♪ヽ(´▽`)/ (2018年10月26日 13時) (レス) id: b5b973b1e3 (このIDを非表示/違反報告)
流華(プロフ) - ここさん» ここさん、こんにちは。コメントありがとうございます♪藤北さん……拗れてまさからね(笑)どうなることか(^_^;)頑張りますので、今後もよろしくお願いいたしまーす(*´∀`)♪ (2018年10月26日 13時) (レス) id: b5b973b1e3 (このIDを非表示/違反報告)
流華(プロフ) - 椿さん» 椿姫……(笑)喜びの舞だったり、机の角で頭ぶつけたりと忙しいな(笑)ああ、卓袱台返しの準備もするんだっけ?(笑) (2018年10月26日 13時) (レス) id: b5b973b1e3 (このIDを非表示/違反報告)
流華(プロフ) - SIZUKUさん» SIZUKUさーん♪♪いつも、ありがとうございますー♪ヽ(´▽`)/ゆっくり進んでます(笑)そうです、お墓ですよ。あれが、誰のお墓なのか…。ポイントですね、それ(笑)伏線……回収出来るはずです(たぶん/笑) (2018年10月26日 13時) (レス) id: b5b973b1e3 (このIDを非表示/違反報告)
充瑠(プロフ) - 流華さーん!!お久しぶりです。いよいよですね!実はこの夏に、ロケ地に行ってきまして。まだ記憶も鮮明なので、今後が楽しみです^^いつまでも待ちますー (2018年10月21日 0時) (レス) id: 5cca4c3768 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:流華 | 作成日時:2018年6月8日 11時