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虹の跡 Ki ページ1

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「ちょっとガヤ、そんな言い方…「玉。」


俺は、文句を言いかけた玉の腕を掴んで制した。
そんな俺を藤ヶ谷が見る。
そこには何の感情も浮かばない無表情な瞳が鎮座していた。


「悪いな、藤ヶ谷。気を付ける。」


俺の言葉を最後までは聞かずに、藤ヶ谷の視線は横尾さんへと移って。
そして、その瞳は甘やかに溶ける。

ツキンッと胸と頭が痛んだ。

それは、物理的な痛さなのか精神的な痛みなのかはもうわからない。
痛むのは身体か。それとも心か。

霊廟の空気は澄み渡り、少しだけ寒い。

二度目の歌を捧げるまではまだ時間もあり、俺は用意された控え室を抜け出して広大な敷地の中を緑に誘われるがままに歩く。

皆は俺の体調が良くないことを考慮して休むことを進めてくれたが……恐らくは休めない。
あの無表情の瞳がそこにあって、あの声が俺じゃない相手を甘く呼ぶのを聞いていられるほど、今の俺の心は強くない。

いつか、全てが思い出に変わって、そうしたら……。

そう思って、そんな日は永遠に来ない気がした。
藤ヶ谷が特別じゃなくなる日なんて、来るのだろうか。
あの瞳が、あの声が、甘やかに俺以外に向けられるのを、冷静に受け止められる日なんて……。

ぼんやりと、目に写る景色を見るともなく眺めながら足を進める。
霊廟の敷地は広大で、緑の歌うたい達が丹精込めて育てた深緑が柔らかな風に葉を揺らしていた。
一際大きな樹は、張った根が盛り上がり生命力を強く感じさせる。
俺は、その根に腰を下ろした。
樹の幹に寄りかかり深く息をついて、木々の葉の隙間から射してくる陽の光に目を細める。
木漏れ日が差し込むそこは……初めて声が色を持った学舎の中庭の景色に似ていた。

あの日……初めて声が色付いたあの日……こんな日が来るなんて思いもしなかった……。
真っ赤な顔で俺だけを想って歌ったと、そう言ってくれたあの日の藤ヶ谷。

俺だけの、藤ヶ谷。

思い出しては胸が痛い。
もう何処にもいない、あの藤ヶ谷。
二度と取り戻せないのだろうか。
いつも、いつでも、隣に……









あ、れ……?









思い返す、ここ最近の日々。
そこに。
俺の隣に藤ヶ谷は……いない。
俺の隣は、玉で。二階堂で。
いつも少し遠くに横尾さんと一緒にいる藤ヶ谷。

指先が、小刻みに震え始めた。
今になって気が付く、その事実。
それに、全身が震えた。

※→



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流華(プロフ) - 充瑠さん» 充瑠さーん♪お久しぶりでーす♪♪わぉ、ロケ地に行かれたんですか!?羨ましいー( ☆∀☆)私も行きたいなぁ。頑張って更新していきますねー♪ヽ(´▽`)/ (2018年10月26日 13時) (レス) id: b5b973b1e3 (このIDを非表示/違反報告)
流華(プロフ) - ここさん» ここさん、こんにちは。コメントありがとうございます♪藤北さん……拗れてまさからね(笑)どうなることか(^_^;)頑張りますので、今後もよろしくお願いいたしまーす(*´∀`)♪ (2018年10月26日 13時) (レス) id: b5b973b1e3 (このIDを非表示/違反報告)
流華(プロフ) - 椿さん» 椿姫……(笑)喜びの舞だったり、机の角で頭ぶつけたりと忙しいな(笑)ああ、卓袱台返しの準備もするんだっけ?(笑) (2018年10月26日 13時) (レス) id: b5b973b1e3 (このIDを非表示/違反報告)
流華(プロフ) - SIZUKUさん» SIZUKUさーん♪♪いつも、ありがとうございますー♪ヽ(´▽`)/ゆっくり進んでます(笑)そうです、お墓ですよ。あれが、誰のお墓なのか…。ポイントですね、それ(笑)伏線……回収出来るはずです(たぶん/笑) (2018年10月26日 13時) (レス) id: b5b973b1e3 (このIDを非表示/違反報告)
充瑠(プロフ) - 流華さーん!!お久しぶりです。いよいよですね!実はこの夏に、ロケ地に行ってきまして。まだ記憶も鮮明なので、今後が楽しみです^^いつまでも待ちますー (2018年10月21日 0時) (レス) id: 5cca4c3768 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:流華 | 作成日時:2018年6月8日 11時

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