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緩く風が吹く。
俺は城の塔の上にいた。
城下に街が広がって、その向こうに見える地平線。
そこに砂塵が巻き上がる様を探して。
情報は相変わらず錯綜していて、結局誰が行方不明になったのかがわらないままだった。
予定では今日、派遣団が帰還するはずだ。
いち早く、一目でいいから藤ヶ谷の姿を確認したくて。
藤ヶ谷。
頼む、無事でいてくれ。
祈るような思いは膨れ上がり、心を揺らす。
昨日の夜は、眠れなかった。
二週間ほど前に突然告げられた"さよなら"
別離の花。
その時も、どうしようもないほどに苦しかった。
けれど。
その姿を、二度と見られないよりは余程マシだったことに気付いた。
頼むから、無事でいてくれ。
もう、何も望まない。
オマエが生きていてくれればそれでいい。
だから。
俺の想いが二度と届かなくていい。
あの甘い瞳を俺に向けてくれなくてもいい。
もう、触れられなくてもいい。
お願いだから、生きていて。
横尾さんの隣でもいいから、生きて幸せに笑っていてくれ。
もう、それだけでいいんだ。
地平線を見つめながら、気付いたら俺は歌っていた。
口をついて出るのは、幼い頃に藤ヶ谷と声が色付いたあの歌。
────物質空間移動の秘歌。
気が付けば、この歌には思い出が詰まりすぎていた。
陛下との地下貯蔵庫。
紅様との月夜。
そして……藤ヶ谷との中庭。
♪♪〜〜♪♪〜〜♪〜〜〜〜〜
その歌は、ひどく祈りの想いがこもっていた。
藤ヶ谷……どうか、無事で。
そんな想い。
「ミツ……。」
不意にかけられた声に振り向くと、そこに所在なさげに立つ玉。
その瞳は、やはり不安に揺れて。
リーダーとして自分を、周りを奮い立たせていた玉ではなく、慣れ親しんだ弟の顔をしていた。
「ガヤは、戻ってくるよね。」
「ああ、大丈夫だ。」
藤ヶ谷は、絶対大丈夫。
信じていなければ。
他でもない、俺だけは信じていなければ。
トンっと、地平線を見つめる俺の肩に後ろから重みが加わる。
玉が俺の肩に額を付けて。
首筋に柔らかい感触が擽ったい。
気が付けば玉の背は俺を優に超えて。
すらりと伸びた手足は、大人のそれで。
「ガヤ……。」
なのに、こうして俺の前ではまだまだ甘えた顔をする。
そんな玉を可愛いと思う。
いつからかな……。
藤ヶ谷のそんな顔を見なくなったのは。
肩に重みを感じながら俺はそんなことを思っていた。
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流華(プロフ) - sioriさん» sioriさーんo(^o^)oどっちも悪くなくて、どっちも悪い(笑)言葉足らずの二人(笑)長編!?いや、これでも長いって(笑)もう少し短くまとめたかったのにー(^_^;)頑張って書くーっ♪ヽ(´▽`)/ (2018年6月8日 11時) (レス) id: b5b973b1e3 (このIDを非表示/違反報告)
流華(プロフ) - SIZUKUさん» SIZUKUさーん♪♪いつもありがとうございます(*´∀`)♪ドキドキと言っていただけて嬉しいです♪ヽ(´▽`)/もう、詰め込み設定は悪い癖ですホント(笑)お話から情景を感じ取ってくださるSIZUKUさんの感性、大好きですー(///ω///)♪ (2018年6月8日 11時) (レス) id: b5b973b1e3 (このIDを非表示/違反報告)
siori(プロフ) - 流華さぁん(o^^o)壮大な世界観に毎回引き込まれてるよ〜!ミツと太輔の心情が痛くて(TдT)もう、どうしたら〜。物語を彩る美しい情景にもうっとり♪もっと長編プリーズ!っと、ワガママな事を言う読者(笑)移行頑張って!楽しみにしてるぅ!めっちゃ!(//∇//) (2018年6月3日 19時) (レス) id: 6d214b6dc8 (このIDを非表示/違反報告)
SIZUKU(プロフ) - 流華さーーん!素敵なお話をありがとうございます。ドキドキします。終わりが来て欲しいような、そうでないような笑 流華さんのお話を頭の中で映像化するもなかなか。だから引き込まれていきます。また更新を楽しみにしてます。 (2018年6月3日 0時) (レス) id: a2eddefbd9 (このIDを非表示/違反報告)
流華(プロフ) - あーさん» ああ、すみません……早とちりを(汗)お気遣いの言葉ありがとうございます(#^.^#)亀更新ですみません(^_^;)頭の中では出来上がっているのですが、文字に起こしている時間が(笑)ゆっくり進めて行きますねー♪ヽ(´▽`)/ (2018年5月26日 12時) (レス) id: b5b973b1e3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:流華 | 作成日時:2018年3月22日 17時