赤の喪失 F ページ37
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夢から覚めたのか、それとも未だ悪い夢を見ているのか。
騎乗し、行軍を続ける派遣団の中核に俺はいた。
掲げられる、俺達の臙脂色の旗。
見上げれば、青い空にその臙脂色が翻る。
何度も夢に見たはずの歌うたいになれたことは、何よりも嬉しいのに。
どうしてかな。
胸に巣食う、暗澹たる気持ち。
ひどく重くて、苦しい。
かけがえのないはずの北山から出た言葉。
それは、俺には切なすぎる裏切りにも等しいものだった。
あの部屋は今までの二人の全てが詰まっている。
そこに、いくら仲間だからって他の人を入れたくなんかなかった。
あの部屋は、俺達二人だけの秘密ではなかったのか。
昨夜、俺は寝られなくて渉の部屋に潜り込んだ。
一人で自分の部屋にはいられなかった。
あの花を見て、北山が来るかもしれなくて。
待ってしまうことも、来たら開けてしまうかもしれないことも、どちらも嫌で。
俺の行動に、若干怪訝な表情を浮かべながらも何も聞かないでくれた渉には感謝しかなかった。
朝、遠征の為に早い時間に渉の部屋を出た俺の目に飛び込んできたのは……。
俺の部屋の扉に身体を預けて眠る北山の姿だった。
───来てくれたんだ。
胸に過ったのは、それだった。
それを嬉しいと思ってしまったのが、また悔しかった。
隣の部屋を確認すれば、鍵は開いたままで。
俺は北山を起こさないように抱き上げてベッドへと運んだ。
重い。
昔はもっとずっと華奢だったのに。
俺は、ずっとこの背中を追いかけて。
他の何も目に入らないくらいに、北山だけだった。
だから、俺さえ我慢していればいいんだと思っていた。
愛を重ねた季節に永遠を信じた。
でも。
涙の跡が残るその頬を見ると、どうしようもなく胸が痛む。
嫌いになったわけじゃない……
───お、それならいい所があるぞー。
何気なく吐かれた言葉。
あの言葉を……
許せないのは……好きだから────。
こんなにも俺と北山の温度は違う。
この温度差は、いつか取り返しのつかないものになる。
いつか、本当に壊れてしまうくらいなら……今、終わりにしてしまえばいい。
「きたーま……。」
もう呼べなくなってしまった……俺だけの呼び名。
朝日が差し込む、まだ物の少ないその部屋。
涙の跡の残る丸い頬。
ああ──……愛しい。
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流華(プロフ) - sioriさん» sioriさーんo(^o^)oどっちも悪くなくて、どっちも悪い(笑)言葉足らずの二人(笑)長編!?いや、これでも長いって(笑)もう少し短くまとめたかったのにー(^_^;)頑張って書くーっ♪ヽ(´▽`)/ (2018年6月8日 11時) (レス) id: b5b973b1e3 (このIDを非表示/違反報告)
流華(プロフ) - SIZUKUさん» SIZUKUさーん♪♪いつもありがとうございます(*´∀`)♪ドキドキと言っていただけて嬉しいです♪ヽ(´▽`)/もう、詰め込み設定は悪い癖ですホント(笑)お話から情景を感じ取ってくださるSIZUKUさんの感性、大好きですー(///ω///)♪ (2018年6月8日 11時) (レス) id: b5b973b1e3 (このIDを非表示/違反報告)
siori(プロフ) - 流華さぁん(o^^o)壮大な世界観に毎回引き込まれてるよ〜!ミツと太輔の心情が痛くて(TдT)もう、どうしたら〜。物語を彩る美しい情景にもうっとり♪もっと長編プリーズ!っと、ワガママな事を言う読者(笑)移行頑張って!楽しみにしてるぅ!めっちゃ!(//∇//) (2018年6月3日 19時) (レス) id: 6d214b6dc8 (このIDを非表示/違反報告)
SIZUKU(プロフ) - 流華さーーん!素敵なお話をありがとうございます。ドキドキします。終わりが来て欲しいような、そうでないような笑 流華さんのお話を頭の中で映像化するもなかなか。だから引き込まれていきます。また更新を楽しみにしてます。 (2018年6月3日 0時) (レス) id: a2eddefbd9 (このIDを非表示/違反報告)
流華(プロフ) - あーさん» ああ、すみません……早とちりを(汗)お気遣いの言葉ありがとうございます(#^.^#)亀更新ですみません(^_^;)頭の中では出来上がっているのですが、文字に起こしている時間が(笑)ゆっくり進めて行きますねー♪ヽ(´▽`)/ (2018年5月26日 12時) (レス) id: b5b973b1e3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:流華 | 作成日時:2018年3月22日 17時