紅の月夜 Ki ページ28
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緩やかな風が頬を撫でた。
空には細い弓張り月から、柔らかな月華が降り注ぐ。
手にした蝋燭の明かりは、穏やかな風に揺れていた。
空中回廊は人気もなく、俺の足音だけが響いて。
今日、虹の祝福の儀式で俺達の上で虹色が灯った。
その興奮の冷めやらぬままに、藤ヶ谷をあの部屋へと誘ったが……ひどく悲しい顔で断られてしまった……。
何を、考えて……?
昔、あれほど手に取るようにわかった藤ヶ谷の心が今は全然わからない。
徐々に遠くなっていく気がする藤ヶ谷。
どうして。
なんで。
断られたまま、同じ部屋で眠りにつくことがどうしても出来そうになかった俺は外へと出た。
行く宛もないままに、足の向くままに。
そんな俺の目に飛び込んで来たのは、城で一番高い塔とそれに重なる月だった。
そのまま月に誘われるように、俺は寄宿棟から空中回廊へと入った。
目の前には、城へと続く大きな観音開きの扉。
俺は、深く息を吸い込んだ。
1音目が色付く。
今日の儀式で、頭の中で鳴り響いた歌。
開城の歌─────。
俺の"赤"に反応してゆっくりと開く扉。
ああ……。
半信半疑だった。
この歌で、扉が開くのを何度も見てきていたが、本当に俺の声で開くのかと。
それは、城に自身が歌うたいであることを認められた気さえした。
緩やかに開く扉は、その証明だ。
俺は、再び歩き始めた。
外から見た景色を頼りに、曖昧な記憶を辿って塔を目指す。
城内は人気は無いが、灯は消えておらず寝ずの番をするかのように等間隔に明かりが灯る。
そして、ひとつの扉を開けると、城とは床の材質が変わる。
どうやら塔の中に入ったようだった。
石造りの螺旋階段。
それを上がり始めると、耳に歌が響いた。
この声は。
階段を上がる度に、近くなる声。
聞こえる歌は、知っている歌だ。
学舎で、何度も何度も歌ってきた歌。
あの日、虹の奇跡を見た───あの歌。
力強く、甘い歌声。
その人は、高い塔の一番上で……
城壁に背中を預けて、酒を片手に月を見上げて歌っていた。
弓張り月に響く、その歌。
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「紅様……。」
月を背に、紅い秘歌に包まれた紅様が……
俺を見て笑った。
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流華(プロフ) - sioriさん» sioriさーんo(^o^)oどっちも悪くなくて、どっちも悪い(笑)言葉足らずの二人(笑)長編!?いや、これでも長いって(笑)もう少し短くまとめたかったのにー(^_^;)頑張って書くーっ♪ヽ(´▽`)/ (2018年6月8日 11時) (レス) id: b5b973b1e3 (このIDを非表示/違反報告)
流華(プロフ) - SIZUKUさん» SIZUKUさーん♪♪いつもありがとうございます(*´∀`)♪ドキドキと言っていただけて嬉しいです♪ヽ(´▽`)/もう、詰め込み設定は悪い癖ですホント(笑)お話から情景を感じ取ってくださるSIZUKUさんの感性、大好きですー(///ω///)♪ (2018年6月8日 11時) (レス) id: b5b973b1e3 (このIDを非表示/違反報告)
siori(プロフ) - 流華さぁん(o^^o)壮大な世界観に毎回引き込まれてるよ〜!ミツと太輔の心情が痛くて(TдT)もう、どうしたら〜。物語を彩る美しい情景にもうっとり♪もっと長編プリーズ!っと、ワガママな事を言う読者(笑)移行頑張って!楽しみにしてるぅ!めっちゃ!(//∇//) (2018年6月3日 19時) (レス) id: 6d214b6dc8 (このIDを非表示/違反報告)
SIZUKU(プロフ) - 流華さーーん!素敵なお話をありがとうございます。ドキドキします。終わりが来て欲しいような、そうでないような笑 流華さんのお話を頭の中で映像化するもなかなか。だから引き込まれていきます。また更新を楽しみにしてます。 (2018年6月3日 0時) (レス) id: a2eddefbd9 (このIDを非表示/違反報告)
流華(プロフ) - あーさん» ああ、すみません……早とちりを(汗)お気遣いの言葉ありがとうございます(#^.^#)亀更新ですみません(^_^;)頭の中では出来上がっているのですが、文字に起こしている時間が(笑)ゆっくり進めて行きますねー♪ヽ(´▽`)/ (2018年5月26日 12時) (レス) id: b5b973b1e3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:流華 | 作成日時:2018年3月22日 17時