紅桜の鎮魂歌 第二章

桃色の声 Ki ページ15

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それは本当に、小さな……違和感。

歯の間に何かが挟まったような。
たくし上げた袖を元に戻した時に、下に着ているものだけが未だに肘の辺りで丸まっているような。

大したことは無いのだけれど、それでも残る……若干の不快感。


「北山は、明日から地方かぁ……」


「ん？寂しい？」


「まぁね。でも俺よりも玉やニカの方が寂しいんじゃない？」


二人でいても、こういう時にまた違和感が生まれる。
いつから……こんな顔をするようになった？
何て言えばいいのか……ひどく、綺麗に笑うようになった。


「今回、桃館の補佐様も行かれるんだって？」


「あれ？オマエ知り合い？」


「ああ、渉が仲がいいから。」


桃館の長、桜様の補佐官はお二人いる。
うちのお一人が、明日からの派遣団に帯同される。

渉……か……。

いつの間にか、名前で呼び合う二人。
柔らかな空気が流れる二人。

なぁ……それも、いつから……？


「なぁ、藤ヶ谷……」


「ん？」


───横尾さんと、仲良いよな。


「……いや、明日、晴れるといいな。」


「…………うん、そうだね。」


言いかけた言葉は、音にする前に止めた。
余りにも女々しいそれ。
嫉妬が剥き出しになりそうな、それ。

思わず、言葉を誤魔化すようにその頬に触れた。
俺のいきなりの行動に、驚きつつもその瞳を甘やかに細める藤ヶ谷が愛しかった。

それで、安心している自分にも気が付いていた。

この手で触れれば、蕩けさせる身体に、心に、安堵する。
可愛い藤ヶ谷……。
俺だけの、可愛い藤ヶ谷……だったはずなのに。

その可愛いさは、少しだけ鳴りを潜めて。
代わりに、何処か身体の奥がぞくりとするような色香を纏い始めた。

切れ長の涼しげな目元が紡ぎ出す秋波。

感情を露に、全身を使って俺への好意を隠そうともしなかった幼き日の藤ヶ谷を少しだけ懐かしく思う。
二人きりになれば、時々顔を出すけれど……他に誰かがいる時は、ほとんど見せなくなった。

なのに。

横尾さんに、時々あの顔をしてみせる時がある……ような気がする。
まるで、比例するように俺に見せる顔と横尾さんに見せる顔が、入れ替わっていくような。

聞かなくてもわかる……横尾さんを好き……なんだろうなってこと。
俺への気持ちとは、違う好きだとしても。









少しだけ……面白くない。









そんな思いを、心の裏側に隠して……甘い藤ヶ谷に溺れていった。

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