茜色の背中 F ページ40
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あー、しくった。
明日から、初めて北山のいない地方遠征が始まることで、何処か色々と上の空だった俺は授業の終わりに教室に譜面を忘れてきた。
しばらく授業にも出ない状況を考えると、紛失の危険があるため面倒に思いながらも譜面を取りに先程の教室へと向かっていた。
今日の授業は全てが終了していて、ガランと人気のない廊下。
太陽が傾き、深い色の木製の床も壁も全てが茜色に染まっていた。
あまり見たことのないその光景に、俺は思わず足を止めた。
綺麗だ……。
何もかもが茜色に染まる世界。
視線を移せば、自らの掌さえもが染まるその光景を、美しいと心の底から思った。
その感情は、好ましさと憧れと、決して手に入らないものへの僅かばかりの焦燥を孕んでいた。
それは何処か……俺の中にある北山への感情と似ているような気がした。
愛しいと思う感情と同様に、全てを手に入れられない焦燥感。
北山は生きて呼吸して己で考えて動く。
だから、その全てを手に入れたいなんて、本当は無理だってわかっているんだ。
けれど、どうしても望んでしまう。
この気持ちを何て言うのか、俺は知ってる。
ただの、醜い────独占欲。
子供の癇癪のような感情。
俺だけを最優先してくれない北山に対する、憤りと不安。
もっと、俺を見て。
もっと、俺だけを見て。
なんて欲深い。
こんな自分が嫌だ。
時々、見たくもないと思ってしまう。
「はぁ……」
吐き出す溜め息は深い。
最近は、ずっとそんなことばかり考えていた。
玉も宮田も、北山が大好きで。
北山も、玉や宮田が好きで。
でもそれは俺と北山の間にある好きとは違う好きのはずなのに。
それがわかっているのに、大人になりきれない自分がひどく嫌だ。
─────オマエも気にかけてやってくれよ。
あの言葉が、俺を縛る。
そんなことを言われたら、平気な顔をするしかない。
俺は大丈夫って言うしかない。
本当は大丈夫なんかじゃなくても。
欲深く、北山の全てを望む自分がひどく汚いような……そんな気になる。
それは、北山の求める俺じゃない。
俺じゃないんだ。
今夜も行こう。
あの秘密の部屋に。
早く、二人であの部屋に行きたい。
あの部屋の中だけは、北山の全部は俺のものだから。
それは、あの部屋に依存していると言っても過言じゃなかった。
そして俺は、たぶん何処かで、そんな自分に疲れていた。
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流華(プロフ) - SIZUKUさん» SIZUKUさーん♪ヽ(´▽`)/もう、その頭の中で映像が描ける感性が素敵ですねっ(≧∇≦)SIZUKUさんを含め、皆様の妄想力に助けられております、はい(笑)続きも頑張りますo(^o^)o (2018年3月22日 17時) (レス) id: b5b973b1e3 (このIDを非表示/違反報告)
流華(プロフ) - ゆうりんさん» はじめまして、こんにちは。コメントありがとうございます(#^.^#)世界観、わかって頂けて嬉しいです♪♪あー…ですよねぇ?(笑)徐々に歪み始めてるのに、全く気付いてないですよね、赤い人(笑)頑張って更新しますので、お付き合いよろしくお願い致します♪ヽ(´▽`)/ (2018年3月22日 17時) (レス) id: b5b973b1e3 (このIDを非表示/違反報告)
SIZUKU(プロフ) - 流華さーーん!このお話が私の頭の中で映像化されていってます。細かな心情や風景の描写が映像を鮮明にしてます。また現実とリンクして私の頭も心も忙しいです笑 続きが楽しみです。移行前にもう一度初めからおさらいしておこうかな。 (2018年3月21日 15時) (レス) id: a2eddefbd9 (このIDを非表示/違反報告)
ゆうりん(プロフ) - はじめまして!壮大なお話でその世界にどっぷり浸かっちゃってます。7人の歌うたいのこれからがきになるとこですが、それよりも藤ヶ谷さんと北山さんの関係が気になって…早く気づいてあげて北山さん!これからの展開も楽しみです! (2018年3月20日 22時) (レス) id: 9cddd8b82f (このIDを非表示/違反報告)
流華(プロフ) - ましろさん» ドストライクだなんて、恐縮です(汗)もう、書きたいものを気の向くままにだらだらつらつら書いてるだけですから(^_^;)そんな文章からそこまで感じ取ってくれるましろさんの感性が大好きです♪♪♪続き、頑張りまーすo(^o^)o (2018年3月19日 16時) (レス) id: b5b973b1e3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:流華 | 作成日時:2018年3月1日 16時