紅桜の鎮魂歌

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もちろん、昔から北山の顔が可愛いのは知っていた。
幼さを残した童顔は、並み居る候補生の中でも群を抜いて愛らしいものだけど、それを上回る北山の男としての言動と行動に可愛いなんて言葉は程遠かった。
もしかしたら、初めてかもしれない。

抱きたい……なんて。

いつも、男感満載で巧みに俺を言葉と視線で酔わせて翻弄する北山。
受け身の行為の中で感じる"愛されている"感覚。
今日は、俺が。
普段の強さを何処かに置き忘れて来たような、危うげな瞳の北山の唇にキスを落とす。
柔らかい唇が、触れては離れて。


「きたやま……。」


呼び掛ける俺の声に、確実に混ざる色。
何度も何度も、食むようにその唇を味わって。
繰り返せば何かに目覚めたように、北山が身を捩って抵抗を始める。


「やめっ……、じ、がやっ……」


「やめない。」


口付けを交わして、少しずつ北山から儚げな空気が抜けていくのがわかる。
俺は、長椅子の背を跨いで、北山に覆い被さるような体勢になった。

今日は。
今は。
そのまま愛されていて。
いくら俺より筋肉質で力が強くても、この体制から引っくり返すのは無理なはず。
俺の唇が、北山の唇から離れてゆっくりと下がっていく。

ちゅ。

頬に、顎に、首筋にキスを落として。


「ちょっ待っ、藤ヶ谷っ……」


「待たない。」


焦ったような口調で逃げようとしているけれど、ほら……その瞳はまだ揺れている。

隠していた不安が、抑え込んでいた心許なさが、溢れそうなんでしょ？
逃がさないよ、北山。
こんな時こそ必要でしょ、俺が。
ほら、おいで？


「俺、頼れって何度も言ったよ？」


困惑の表情さえも作りきれない北山は、俺の言葉を理解しているのか、いないのか。
それとも、理解しながら知らないふりをしているのか。
もう、どうだっていい。
甘やかすって決めたから。
お兄ちゃんの仮面を被るのに慣れすぎた北山を。
自分でも気付かないうちに限界に達している北山を。
この手で、ドロドロに溶かしてやる。
そう出来るのは、俺だけだって信じさせて。
困ったように、眉尻を下げて北山が笑う。
まだそんな風に仮面を被ろうとするから、少しだけ意地悪をしたくなる。

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