紅桜の鎮魂歌

※ ページ34

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強張りが解けて、ゆっくりと弛緩する身体。
藤ヶ谷の甘い腕の中に堕ちていく。
今だけは、この腕に全てを任せてしまおう。
俺の弱さを。

全て。

俺が力を抜いたことが伝わったのか、藤ヶ谷の腕が更に優しく俺を包み込む。


「ふふふ。何か今の北山、珍しく隙だらけ。」


珍しくにも、隙だらけ、にも思うところはあるけれど、もういい。
それを取り繕う余裕は既にないから。
隙に漬け込むというなら、そうしてくれ。
いや、そうじゃなくて。

この瞬間が欲しかったのかもしれない。

本当は、頑張ることに疲れて、疲れたと言わせてほしかったのかもしれない、俺は。


「ごめん……。」


「何で謝んの？」


わからない。
ただ、溢れそうな思いをどうにかしてほしいと思ってしまった。
藤ヶ谷だって、焦燥を抱えているはずなのに。
こんな。
俺が、こんな。


「今は…強い兄貴なんて、求めてないよ。」


柔らかに降り注ぐ言の葉。
強く、優しく。

オマエ、いつの間に、そんな大人に？

そうは思っても、言葉になんか出来なくて。
ただ、与えられるその甘さ……


「ん……続けて……」


こういうのも、悪くない。
いつの間にか大人になってしまっていた可愛い恋人に溺れて────沈む。



俺は、藤ヶ谷に全てを委ねた。



首筋に再開されるキス。
眩暈がしそうな甘さ。


「ほら、大丈夫じゃない。」


響く衣擦れと、荒い息遣い。
繰り返される夜の音。
藤ヶ谷は、余すところなくその指先で触れる。
身体の外も中も。
心にさえも。
全てを温めるかのように。
分け与えられる温度が、俺の思考を、俺の身体をぐずぐずに溶かしていく。


「ごめん、止まらない。このまま最後までしていい？」


切羽詰まったような、藤ヶ谷の声。
もう、俺は何も考えられずに頷くしかなかった。

弱った心も、つまらない矜持も、もう何もかもどうでもいいから。

もっと、溶かして。


ただただ蕩けるほどに甘く。
殊更丁寧に拓かれていく身体。
あらぬ場所で感じて震える。
知らない感覚に恐怖する身体を、甘い香りを纏った更に甘い腕が包み込んで。
全てが……解放される。









俺はこの日、初めて藤ヶ谷に……









抱かれた──────。

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