紅桜の鎮魂歌

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カラ─────ン………………




空に、鐘の音が響く。
その澄みきった音色は、まるで心を洗われるような気持ちになる。
しかし、この音色が響く時はいつも背筋が伸びる。
何故なら、この鐘の音はある儀式が行われる時にしか鳴らないからだ。


──虹の祝福


そう呼ばれる儀式。
候補生が城に入城出来る、数少ない機会。
普段は議会が開かれる大講堂に候補生が全員集められて、そこに陛下がいらっしゃる。

そして何百人の候補生と陛下が一緒に歌うのだ。
虹の声が、俺達を優しく導いてくれる。

でも俺は……恐らくはこの候補生の中で俺だけが知ってる。
この時の陛下が、いかに抑えてくれているのかを。
先日のワイン貯蔵庫での一件。
あの、全身の血液が沸騰するような感覚。
陛下が本気で相手を引き上げようとする時は、もっと……。

そして、歌が始まる。
美しい旋律。
陛下の虹色の歌声が、大講堂を包み込む。

実はこの儀式は、候補生にとっては特別な意味がある。
この歌が終わると同時に、陛下の虹色が候補生の頭上に残ってその候補生の全身が光る場合がある。
それは候補生の卒業の合図。

つまり、その瞬間から候補生は歌うたいになるのだ。

歌うたい。
ここにいる候補生全員の目標でもある。
何度も経験したこの儀式。
しかし、そこに年月の長さは加味されない。
最短で学舎入学から7ヶ月で卒業を迎えた歌うたいもいる。

そして、これも皇帝が突然歌声が虹色を宿すのと同様に、人の思惑は介入しない。
話によれば、陛下の意思も関係ないのだと言う。

ただ、その候補生が虹色に光る。

毎年行われるこの虹の祝福の儀式。
しかし、毎年歌うたいが誕生するわけでもない。
誰も光らない年もある。




これも正に、天が選ぶのだ。




何度目かになったこの儀式に、俺は少しの焦燥を抱えて臨む。

いつになったら。

その思いが、消えない。
既に年下の歌うたいも存在する。
俺は気がつけば、候補生の中でも随分と年長になっていた。

そして歌が終わる。

その瞬間。









斜め前の前方で、ふわりと灯る虹色。



それを筆頭に、あちこちで虹色に色付く。









祈る思いで見つめ続けた俺の頭上。









頼む。

頼む。

頼む───────……。









しかし、願いも虚しく……最後まで、俺の頭上も、隣に立つ藤ヶ谷の頭上も光ることは無かった。


そうして、今年の虹の祝福は終わりを迎えた。

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