紅桜の鎮魂歌

※ ページ21

.


泣いてはいなくても、泣きたいとでも言いたげな。
普段は言えない想いを乗せているような情感に溢れたその声音。

宮田？

疑問に思った時、ほわりと宮田の回りに光が集まり始める。
淡く漂うようなそれ。


あ、いける──────。


灯り始める色。
宮田を包むように優しく。


紫。


それを視認して、驚いたように宮田は歌を止めた。
呆然と空間を見つめる宮田に、あの日の俺と北山が重なる。


「宮田っ!!!」


呼び掛けると弾かれるように俺を振り返って。
俺と既に消えて消えてしまった空間を何度も視線が行き来する。


「ガヤさん……俺……」


「やったな、宮田っ!!!」


「ガヤさんにも……見えた……？」


「見えたよ。」


何処か茫然自失の宮田に、柔らかく笑いかけてやると宮田はその場に尻餅をつくように座り込んだ。


「はは…ははは……出来た……これで、……」









───まだ、一緒にいられる









呟いた声は、喜びと安堵と。
感情が複雑に絡み合っていた。
普段は決して見せない、宮田の心の奥。
零れ落ちた本音。

誰と？なんて聞くまでもない。

その瞳に揺れる、俺と同じ想い。
見つめるのは…………


共に歩く未来──────。


「でも、紫…か……。」


宮田の顔に、別の不安が広がる。

紫は、秩序を司る法の番人。
罪人を裁く権限は、紫館だけが有する。

それは、誰よりも優しい宮田には酷な場所かもしれなかった。
人を裁くのだから。

紫館の長、菫様(すみれさま)は熱く強い信念の人だ。
菫である自分に誇りを持ち、常に周囲に気を配る気遣いの人でもある。
"罪を憎んで人を憎まず"を体現しているような。


「何事もやってみなくちゃ、わからないよ。」


「……うん、そうだね。」


返事はしたものの、宮田の声には不安が混ざっていた。
それでも、やっとの思いで色付いた声に安堵したのも事実で。
複雑な想いが瞳の中で揺れていた。

※→←黒の感情 F

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す