紅桜の鎮魂歌

赤茶の宝物 Ki ページ11

.



歌うたいの学舎は城の裏手にあり、かなり広大な敷地に立てられた大きな建物だった。
その中は学習棟と寄宿棟に別れている。
普段、俺達が生活をするのが寄宿棟。
授業を受けるのが学習棟だった。

そして、寄宿棟の上層階には一人部屋も完備されており、現役の歌うたい達も何人かが生活していた。
何と言っても、寄宿棟は空中回廊で城と繋がっている為、政務に携わる上では城が近いことが都合が良いというのが一番の理由だった。
無論、七官の長ともなれば外に家を構えるのが常だが、未だ紅様だけは寄宿棟で生活をしている。

皆それを疑問に思っていたけれど、俺はあの白の誓いを見て納得した。
寄宿棟は、外の何処に家を構えるより陛下の私室に近い。


紅様は恐らく、少しでも陛下のお側に在りたいのだろう。


あの日以来、紅様は寄宿棟の食堂で会えばお声をかけてくださった。
もちろん、赤館は軍として国を守る機関でありながら罪人を捕まえる仕事さえも担っているため、激務に追われる紅様に会うことは多くはないが。


「お、北山に藤ヶ谷。ここ座れ。」


既に歴代最高と名高い紅様に憧れている者は多く、気安くお声をかけて貰えることが純粋に嬉しかった。


「北山、オマエ"赤"だって？早く上がって来いよ、鍛えてやるから。」


「藤ヶ谷、"桃"らしいじゃん。桜は冷静に厳しいからな、頑張れよー。」


屈託なく笑う紅様は、立場を超えて人に好かれる人なのだろう。
こんな下の下で、未だ候補生の俺達にも態度を変えることはない。
でも、あの日から紅様は同期生でもある桜様や碧様(へきさま)、梔子様(くちなしさま)のことも役職名で呼んでいた。
そして陛下も、公の場面だけでなく私的な時でも皇帝という立場を意識した行動、言動になられたと聞く。

これはきっと、このお二人のけじめ。

新しい皇帝を迎えて、役職を終えるまではその姿勢を貫くのだろう。

この国の為に。

※→←※

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す