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車に乗り込むのは、当然俺が一番最後で。
ゆっくりと走り出す車の窓から西陽が差し込んだ。
ぼんやりと誘われるように視線はそちらへと移る。

(そび)え立つ摩天楼の隙間に見える空は。





息を呑むほど─────・・・赤く。





連なる雲を染める茜色。
美しきローズマダーが織り成す華やかなる天体ショー。
沈み行こうとしている落陽は鮮やかで、それでいてほんの少しの切なさを内包する。
影は長く伸び、全ての輪郭が朧気に霞む(とき)

俺はただ、その美しい夕焼けを眺めていた。
夏の夕焼けは、他の季節より赤い気がしてしまうのは俺の心のせいだろうか。
赤く染まるその空を見上げながら思い出す人はただ一人だけ。



その背に赤を背負う男。



己の燃え盛る焔のような恋情を持て余して、俺は思わず落陽から目を逸らして己の両手を見つめた。

先程まで、撮影とはいえ腕の中へと収めていた気配は既にない。
けれど、ここに北山の温度が残っているような気がして、何度か手を握って開いてを繰り返す。
意識して存在の残滓を振り払わなければ、あっという間に呑み込まれるような気がした。


一瞬の内に、巻き込み、呑み込み、引きずり込む。


あれを、どう表現したらいいのか俺にもよくわからない。
北山の、北山たる所以・・・とでも言えばいいのか。

例えば冠番組のランキングで発揮される一瞬の破壊力。
外す時は的に掠りもしないくせに、決める時はこれ以上ないほどにド真ん中を撃ち抜く。

身近にいる相手に対しては、それが更にプラスに働くのだ。
マイペースで、人懐っこくて、淋しがり屋。
するりと相手の心に入り込んで、気が付いた時には完全に目が離せなくて身動きも出来なくなっている。
しかもそれを、腹黒く計算で絡め取る時もあれば、無意識に引っ掛ける時もあるからまた厄介だ。


ホント、勘弁してよ・・・。


未だ、そこに何かが残っているような気がする指先を、再度意識して動かした。


「太輔?手、どうかした?」


「あ、いや、何でもない。」


手のひらを見つめて、意識して握ったり開いたりを繰り返す俺を疑問に思ったのか、渉が声をかけてきた。
何でもないと告げながら俺は手を動かし続け、視線を再び西へと向けた。

沈みきった光の名残は、鮮やかに空を染める。
マジックアワーが始まって。

美しい赤を見ていたら、無性に泣きたくなった。









そんな俺を渉が心配そうに見つめていることに、俺は気付いていなかった。


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流華(プロフ) - sioriさん» 一番乗りコメント、すごい嬉しいです♪♪やっぱりここを少しだけスクロールすると「作成日時」が残るじゃないですか。その日付を残したくて(笑)素敵な恋!?(笑)んー・・・素敵な恋もそれなりにありましたけど、素敵じゃない恋もたくさんありましたよ(笑) (2021年9月18日 23時) (レス) id: 9ee96bd060 (このIDを非表示/違反報告)
siori(プロフ) - 流華さん、やった!1番(笑)北山くんの誕生日に続編を更新してくれて嬉しいです!そしてやっぱり流華さんの言葉選びが本当に大好き。どんな素敵な恋をしてきたんですか?(笑)ふふ。この先どうなっていくのか楽しみです! (2021年9月17日 18時) (レス) id: 2b4c1e0fcf (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:流華 | 作成日時:2021年9月17日 18時

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