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っ、

悩むだけなら、まだいい。
けれど、その瞳に悲しみの色を乗せられてしまったのなら・・・。


「きたやま・・・」


「・・・ん?」


俺の呼び掛けに一瞬ぴくりと肩を揺らしたものの、俺の視界の中で瞬く間に作られていくポーカーフェイス。
それは知っている顔で。


ああ──────・・・無理だ。


その顔を向けられてしまったならば。
これ以上は踏み込むなと言われている気さえした。

俺は北山から視線を外し、俯いて短く息を吐いた。
そして、ローテーブルに残された桜色のすず音を一気に呷る。


「ごちそうさま。俺、帰るね。」


「っ、あ、・・・。」


飲み干して空にしたグラスをローテーブルに置いた音が、やけに大きく響いた。
立ち上がった俺を見上げる北山は、ポーカーフェイスを纏ってはいるものの、その彷徨う瞳は何処か迷子のような心許なさを孕んでいる。

この胸に宿るどうしようもないほどの愛しさは、こんな時でさえ心を騒がせる。
そんな顔をさせているのは、間違いなく俺なのに。
北山に、そんな顔をさせられる存在は然程(さほど)多くはないだろうと思えば仄暗い優越感が浮かび上がる。


ホント、嫌んなるわ。


己の、少しだけ歪んだ感情に自嘲の笑みが漏れた。


「ふ、じがやっ、・・・」


北山に背を向けて歩き始めた俺に掛けられる声は少しだけ震えて、いつもの強さはない。
俺の肩がぴくりと揺れたけれど、それでも平静を装って俺は振り返る。
俺はその瞬間にスイッチを入れた。


被るポーカーフェイスは。

"いつもの藤ヶ谷"。


それが、どれほど通用しないものであっても構わない。
何故なら北山にそれが通用しなくたって、それを今の北山が暴くことはないから。

さぁ、笑え。


「また、ね、北山。」


「あ・・・ああ、また、な。」


俺を見た北山の表情は、ひどく辛そうで。
きっと俺も同じような顔をしているのだろう。


こんな、顔をさせたかったわけじゃないのに・・・。


哀しませたかったわけじゃないんだ。
ただ、自分でも信じられないほど簡単に、理性の(たが)が外れてしまった。
中高生でもあるまいし、己を制御出来ないなんて。



トリガーは、北山からの俺の涙へのキス。



それだけで、俺はコントロールを失った。









ガチャン──────・・・。


扉が閉まる。

音を立てて。

その、閉まった北山の家の玄関扉は、まるで俺と北山との心の扉の様だと思った。


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※→←それを恋と



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流華(プロフ) - sioriさん» 一番乗りコメント、すごい嬉しいです♪♪やっぱりここを少しだけスクロールすると「作成日時」が残るじゃないですか。その日付を残したくて(笑)素敵な恋!?(笑)んー・・・素敵な恋もそれなりにありましたけど、素敵じゃない恋もたくさんありましたよ(笑) (2021年9月18日 23時) (レス) id: 9ee96bd060 (このIDを非表示/違反報告)
siori(プロフ) - 流華さん、やった!1番(笑)北山くんの誕生日に続編を更新してくれて嬉しいです!そしてやっぱり流華さんの言葉選びが本当に大好き。どんな素敵な恋をしてきたんですか?(笑)ふふ。この先どうなっていくのか楽しみです! (2021年9月17日 18時) (レス) id: 2b4c1e0fcf (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:流華 | 作成日時:2021年9月17日 18時

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