二人の距離 ページ10
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何年前だっけ・・・?
確か、北山と渉と三人でラジオの収録がある日だった。
集合時間には多少の余裕はあったけれど、俺だけが別の仕事で遅れていた。
待たせていると思うと何となく早足になって、急いで入ろうとした控え室の扉が少しだけ開いていた。
几帳面な渉と北山にしては珍しいなって思って。
そして。
「ねぇ、もういい加減さ、太輔に説明してあげてもいいんじゃない?」
渉の声に、聞こえた自分の名前に、足が止まった。
「ん?」
「ミツが太輔から距離を取ったのは、太輔の為で、裕太の為で、グループの為だったって。」
「・・・なんのこと?」
「そういうの、いいから。俺から見てもさ、ミツに懐くデビュー前の太輔は可愛かったよ。」
「・・・・・・。」
「でも、その可愛さはキング藤ヶ谷には必要のないものだってミツは判断したんだよね?」
「横尾さん・・・」
「どうして、それを説明してやらないんだよ。」
「横尾さん。」
「なに?」
「何の話をしてるのか、よくわかんねぇんだけど?」
「・・・・頑固だねー・・・・・」
呆れるような渉の溜め息を感じたと同時に、俺はその場から足早に離れた。
何かが渦を巻くような。
まるで己の中をグルグルと掻き回されているような感覚だった。
とにかく落ち着きたくて、喫煙所に飛び込んだんだ。
バッグから取り出した煙草に愛用のオイルライターで火を着けて・・・吸い込んだ一口目で、フワッと広がったオイルの香りに少しだけ安心したのを覚えている。
今でも、あの時の衝撃は忘れていない。
色んな瞬間の北山が頭の中で浮かんでは消えて、叫び出したいような衝動に駆られたんだ。
笑い顔。
優しい顔。
困った顔。
悔しい顔。
傷付いた・・・顔。
俺が傷付けた。
北山を遮断して。
メディアでも、それを隠すことなく。
MCの北山に振られた話を答えなかったり、関係のない話にすり替えたり。
傷付いてしまえばいいとさえ。
あれは。
あの、距離は。
俺の・・・為・・・だった・・・?
震える指先で挟んだ煙草を一層深く吸い込んで、ゆっくりと吐き出せば細い紫煙が換気孔に吸い込まれて消えていく。
くらり、と煙草特有の酩酊感に似たものに襲われて、それが治まっていく中で俺は少しずつ冷静さを取り戻していった。
北山が俺から距離を取った、その理由という最初の疑問が埋まれば、その他の疑問や違和感を解決するのはとても容易いものだった。
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流華(プロフ) - さゆさん» さゆさん、こんにちは。コメントありがとうございます。表現と描写は、本当に気を遣っている部分なので、そこを誉めてくださると嬉しくて更に頑張ろうと思えます。活力をくださってありがとうございます。今後も頑張りますので、移行後もよろしくお願い致します。 (2021年9月17日 18時) (レス) id: 9ee96bd060 (このIDを非表示/違反報告)
流華(プロフ) - ユキさん» あははー。良いところで狙って切る癖は、今も健在です(笑)でも、ホントにこのお話はノリとか勢いで書き始めたところがあるので、そんな感じに軽いです(笑)上質と仰っていただけること、本当に嬉しいです♪♪今後もお付き合いくださいませー♪ (2021年9月17日 17時) (レス) id: 9ee96bd060 (このIDを非表示/違反報告)
さゆ(プロフ) - 言葉の遣い方がとても綺麗で、文字数が多いのに一言一句しっかりと目で追ってしまいます!本当に素敵です!移行先でも楽しみにしています! (2021年9月12日 14時) (レス) id: 4e568979a2 (このIDを非表示/違反報告)
ユキ(プロフ) - うわ!そこで移行ですか!!!笑 めっちゃ気になりますーー!上質なお話を読んでいたのに「面白いそー♪」って流華さんのノリの温度差に笑ってしまいました笑 続き楽しみにお待ちしてます☆ (2021年9月12日 13時) (レス) id: d4b3736ff0 (このIDを非表示/違反報告)
流華(プロフ) - sioriさん» sioriさーん♪♪にゃはは〜だって、狙って切ってますもん(笑)読み返してくれたんですか!?嬉しーです♪♪今回は伏線無しだから、謎とかも無いですけど楽しんでくれたら十分です♪sioriさんが読んでると気合いも入るので!!! (2021年9月12日 12時) (レス) id: 9ee96bd060 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:流華 | 作成日時:2021年8月11日 13時