その指先に愛を乞う

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俺が座ったそのタイミングで僅か10秒のイントロが終わる。
触れている背中で、可動域の広い北山の肩甲骨が踊るような指先を支えているのを感じながら、俺は胸を開いて息を吸い込んだ。
この曲の歌い出しは、俺。



─────♪≪僕ハ君ナシデ愛ヲ･･･≫



そして、背中から混ざり合うハーモニー。



─────♪≪今だけを見てて･･･≫



胸がつかえて呼吸すらも儘ならなかった先程が嘘みたいに声が伸びて。
誰だかわからないと感じた北山は、まぎれもなく俺のシンメで相棒で。
溶けて混ざり合う、背中の温度は心地よく。

俺と北山のサビから、Aメロへピアノ伴奏が進めば玉が歌い始める。
振り返って玉の方を見れば、譜面台に肘を突いて北山の手元を覗き込みながら歌う玉の姿が北山の肩越しに見えた。
玉の向こうでは同じように宮が北山の手元を見てる。
そして、俺と北山の肩に両手を乗せる渉。
玉がいる方とは反対側を見れば、ニカが千ちゃんを引っ張ってピアノの足に凭れて床に座った。

さすが、ニカ。

気が付けば、甲斐さんがカメラを回していた。
ピアノの左側で渉、玉、宮が立っていて、俺と北山が椅子に座っている……となれば、右側でニカ千がピアノに凭れて床に座ると、右側からカメラで撮れば誰の顔も隠れない。
恐らくはカメラを見て、他のメンバーを見て、瞬時に判断したのだろう。
バラエティーが大好きで、日々上手い立ち位置を研究するバランサーは健在だ。

ピアノを弾く北山をメンバー全員が取り囲むようにして歌う。
俺達は、何たかんだずっとこういう感じだったように思う。
中心に北山がいて、だから好き勝手に動けるような。
好きに何処へ行っても、此処へ戻ってさえ来れば自分の居場所がある……と感じてしまう。

北山は、来るものは拒まないし、去るものは追わない。
けれど一度己の内側に入れたものは絶対に見捨てない。





絶対的な───────安心感。





すげぇ厳しいけれど、すげぇ優しい･･･

俺の･･･

俺の────･･･




────♪≪これから先の未来には不安など･･･≫




落ちサビで響く、俺と北山の声。
それを導く、北山の指先が奏でる美しきピアノの旋律。
音が螺旋を描いて広がっていくのが見える気がする。
溶けるほどに気持ちいいこれは、下手な性.行為などより余程強烈な快楽を生んで。


ああ。


言葉も出ない。

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