その指先に愛を乞う

※ ページ42

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居たたまれなさから漏れ出た憎まれ口は、別の爆弾を誘発した。

女･･･
女か･･･
そうだよなぁ･･･

当たり前だ。
北山は男で、性の対象も当然女性で。

あ･･･

不意に思い出した報道にひどく胸は痛む。

忘れていた。
そういえば、この前･･･

けれどそれを悟られるわけにはいかないから。
痛む胸を見ないフリをして言葉を続ける。


「北山は、最近こんな感じで女の子を口説くの？」


「は？何言ってんだ。最近は全然ねぇよ。」


「報道、されてたじゃん。」


「ああ、あれ。」


「･･･うん。」


「よくBARで一緒になるから、一緒に飲むのはホントだけど、普通に友達なんだけどなぁ･･･」


苦笑しながら北山はまたグラスを傾けた。
なんであんな"まるで真実です"みたいに書けるんだろうな、と笑う北山の態度に嘘はない気がした。
自分がどうこうなれるわけではないけれど、北山の言葉に少し安堵してしまう。

北山は、実際モテる。
程よい距離の取り方と豊富な話題。
場の空気を読む感性と回転の早い頭。
そして、今回身を持って知った大人の余裕。
はしゃいで騒いで、そんなノリの良い雰囲気もお手の物なのは知っていた。
けれど、こういう顔も持っていた･･･いや、俺が北山を遮断している間に身に付けた･･･のだろう。

目の前には、しっとりとした大人の顔をした北山が緩やかに笑む。



何か･･･勿体ないことをしたかも･･･



俺が意地を張って遮断している間に、北山は大人の余裕を手に入れていた。
この十年変わらずにすぐ傍にいたなら、この余裕を手に入れていく過程まで見ていられたのかもしれない。

初めての高級フレンチでズラリと並べられたカトラリーにどれを何に使うの？と冷や汗を垂らしたり。
初めての懐石料理に見た目の美しさと美味しさに感動しても何を食べているのかわからなかったり。
初めてオーセンティックバーに足を踏み入れた時に結局『とりあえずビール』と言ってしまったり。

何にだって、初めての時にしか味わえないものがある。
俺にも記憶のあるその瞬間を、共有出来る位置に俺はいたはずだったのに･･･
意地を張っている間に、見逃したものがあったと思うとやはり勿体なかったなと思わずにはいられなかった。


「それで？話したいことって？」


･･･考えても仕方ない。
所詮"もしも"は"もしも"なのだ。
どれほど思ったところで、その未来はもう手には入らない。
感傷を振り切るように、俺は北山に今日の本題を促した。

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