その指先に愛を乞う

これは、俺のだ。 ページ28

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「はよ。」


「おはよ、北山。」


「･･････」


「ん？」


「･･･いや、何でもない。」


渉とリモートで呑んでからしばらくして、例の雑誌の撮影日になった。
迎えに来たマネージャーのワゴン車に乗り込めば、最後部座席にマネージャーが先に拾ってくると言っていた北山が少し眠そうに座っていた。
挨拶を交わすと、その後で無言で俺を見つめる北山。
疑問に思って聞き返しても北山から解答は貰えず、そのまま視線が窓の外へと流れていった。
俺も問いただすような真似をする気にもならず、北山の斜め前へと乗り込んだ。

どうせなら、俺が後ろなら良かったのに。

そうすれば北山のことを見放題だったのにと思ってしまう俺は、あれから気持ちをそれなりに整理していた。
酔っ払った状態で唐突に気が付いたように感じた想いは、あまりにも強く根深い想いだった。
とにかく驚いてパニックになって、その上泣いた。
泣くという行為は、実は血液の循環を高める効果があったりする。
しかも、あの時は少々アルコールを飲み過ぎていた。
そんな中で、血液の循環を上げたりなんかすれば、一気にアルコールは回る。
俺は、あのままキッチンマットの上で丸くなって寝落ちしてしまった。
30歳を過ぎてする行為じゃないとは思うけれど、あの時は仕方なかったと自己弁護もしたくなる。

不思議なことに、同性に想いを寄せることに対しての嫌悪感は浮かんではこない。
もちろん、向けられたいとは思わないけれど。
北山だから、なのだろう。

幼い頃から知っている北山という男は、強く揺るがない信念の男だ。
常に前だけを見据えて、前に進む為ならば己を簡単に犠牲にするくせに、内側に入れた相手には掛け値なしで優しい。
騒ぐ時はとことん、真面目な時もとことん。
興味のあることはどんどんと知識を吸収していくくせに、興味が持てないことには俺にとっては常識だと思えることさえ知らなかったりする。
だから、最低限しか気にしない自分のことにはわりと無頓着で、その上大雑把だ。
けれど意外に寂しがりで、その裏返しのように人懐っこかったり。
そういうところが、アンバランスで目が離せない。

わかっている。
北山は、自由を愛する男だ。
そして俺は、自惚れではなく北山にとって間違いなく内側に入れた人間だ。
俺だけじゃなく、北山にとってメンバーはみんな絶対に内側だ。

そんな俺から、こんな感情を向けられていると知ったなら。



きっと、死ぬほど悩むだろう。


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