その指先に愛を乞う

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思い至った考えが信じられなくて、瞬きを繰り返した。
そして、ゆっくりと視線を己の両手に、そこから床に転がった缶へと移す。
緩やかに広がるアルコールの水溜り。

それが、先程の渉とのやり取りの中で胸に広がった黒点を思い起こさせた。
水紋のように波紋を広げていった黒点。
恐ろしいほどのスピードで心を真っ黒に染めていったあれは。



間違いなく、

嫉妬、と呼ばれる感情だった。



俺は妬いたのだ。
渉に。
俺の知らない北山を知っている、渉に。

何故･･･？





ドクン─────────･･･





またひとつ、大きく鳴る鼓動。
これは。
この鼓動の、意味するところは。

震えそうな手を動かして、ゆっくりと自分の胸元に当てる。
認められない想いばかりが溢れている気がして。


「っ、」


再びキッチンへと向かった。
くらり、と床が揺れる気がするのはアルコールだけのせいだろうか。
シンクに手を付き目を閉じて、揺れる視界をやり過ごす。
じわり、と目頭が熱くなるのを感じた。

なんで。

考える間もなく、ひゅっ、と喉が鳴った。
アルコールのせいか、感情のコントロールが上手く出来ない。
泣きたいのか、叫びたいのか。
今、見えかけているもの。

怖い。
恐い。

物事は、きちんと深く考えてから動くもの。
そして動いた結果を検証し、次に繋げるためにブラッシュアップしていくもの。
そう、してきた。
仕事では特に。
考えて考えて考えて、そうして微かに見えるものを掴み取るような。
プライベートでも、そういうものの考え方が増えた。

けれど、今。
考えることが怖い。
その先に見えるものを認識するのが恐い。



何が見える？─────･･･その先に。



熱く強く、胸の内で一気に燃え上がる焔。
それは、もしかしたらずっとここにあったのかもしれない。
自覚をしたことで更に勢いを増しているようにさえ思う。
いつからだろう。
昨日、今日といった最近に宿った想いではないはずだ。
気が付かなかったのか、気が付かないふりをしていたのか。
何故なら、これほどに。
これほどに。

そのまま立っていることも出来ず、ずるずるとキッチンの床に崩れるように座り込んだ。
震える己の肩を抱き込むように両腕を擦る。

信じられない。
信じたくない。

この、感情。

覚えのあるそれは。
理性を灼き尽くし、覆い隠していたものを剥き出しにするその焔は。









恐ろしいほどに。









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真っ赤だった─────────･･･。


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