焔の後に残ったものは ページ24
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夜風が、アルコールで火照った頬を柔らかく撫でていく。
都心の高層マンションから見える夜景は変わらない。
初めてこの部屋を訪れた時には、この美しい街の夜景に目を奪われたのに。
けれど、それは毎日の生活の中で日常と化して、今更改めてその眺望を眺めたりはしなくなった。
渉とのリモートがお開きになった後、俺は酔いざましにバルコニーへと出た。
東京という街は、眠らない。
不夜城───と呼ばれる灯りの消えない街を見つめながら、俺はミネラルウォーターのペットボトルを傾ける。
喉を爽やかに抜けていく感覚が、体内に取り込みすぎたアルコールを薄めてくれるような気がした。
明日の収録が夕方からとはいえ、少々呑みすぎた感覚はある。
渉に止められなければ、完全に酔っ払っただろう。
リモート呑みは、その後の帰宅などを考えなくていい分、呑みすぎる傾向にあるのはわかっていたが。
半分は北山のせいだ、と居ない人間に矛先を向けたくなるのは、酔っているからか。
それとも。
ああ────・・・気に入らない。
渉との会話で感じた、それ。
メディアなんかで言葉にする気は一切ないけれど、それでもやはり北山と一緒に演る"藤北"は俺の中でも特別だ。
関係を遮断していた頃でも、ひとたび同じステージに上がれば、呼吸が、温度が、肌が、空気が、溶け合うように混ざってこれ以上なくピタリとハマる。
それは、言葉に出来るものでは決してないけれど、あえて言うなれば・・・。
魂が、融け合う─────のだと。
それは、俺にとって"藤北"でしか有り得ないものだった。
悔しいけれど、北山以外の誰かとのユニットでは感じられない……そういう領域のもの。
それなのに。
不意に甦る記憶。
知らない顔なんて、無いと思ってた。
プライベートは何も知らないけれど、俺の隣に並び立つ相棒としての北山ならば、全てを知っていると。
意識はしなくても、ずっとそうだと思っていた。
あの、瞬間までは。
その手が奏でる美しい旋律。
高く、強く、低く、甘く。
純白の礼装と、漆黒の皇帝と、窓から差し込む天使の梯子。
白と黒と光のコントラスト。
それは、さながら宗教画のようだった。
清浄なる淡い光に彼の銀の髪が溶け込んで。
鍵盤に向かった北山が身動げば銀の髪は光に瞬き、周囲を柔らかく染め上げた。
あの、違和感の塊のようだった北山は。
俺とじゃなくても、あの領域へと飛び立てるのだと俺に告げているように見えた。
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流華(プロフ) - さゆさん» さゆさん、こんにちは。コメントありがとうございます。表現と描写は、本当に気を遣っている部分なので、そこを誉めてくださると嬉しくて更に頑張ろうと思えます。活力をくださってありがとうございます。今後も頑張りますので、移行後もよろしくお願い致します。 (2021年9月17日 18時) (レス) id: 9ee96bd060 (このIDを非表示/違反報告)
流華(プロフ) - ユキさん» あははー。良いところで狙って切る癖は、今も健在です(笑)でも、ホントにこのお話はノリとか勢いで書き始めたところがあるので、そんな感じに軽いです(笑)上質と仰っていただけること、本当に嬉しいです♪♪今後もお付き合いくださいませー♪ (2021年9月17日 17時) (レス) id: 9ee96bd060 (このIDを非表示/違反報告)
さゆ(プロフ) - 言葉の遣い方がとても綺麗で、文字数が多いのに一言一句しっかりと目で追ってしまいます!本当に素敵です!移行先でも楽しみにしています! (2021年9月12日 14時) (レス) id: 4e568979a2 (このIDを非表示/違反報告)
ユキ(プロフ) - うわ!そこで移行ですか!!!笑 めっちゃ気になりますーー!上質なお話を読んでいたのに「面白いそー♪」って流華さんのノリの温度差に笑ってしまいました笑 続き楽しみにお待ちしてます☆ (2021年9月12日 13時) (レス) id: d4b3736ff0 (このIDを非表示/違反報告)
流華(プロフ) - sioriさん» sioriさーん♪♪にゃはは〜だって、狙って切ってますもん(笑)読み返してくれたんですか!?嬉しーです♪♪今回は伏線無しだから、謎とかも無いですけど楽しんでくれたら十分です♪sioriさんが読んでると気合いも入るので!!! (2021年9月12日 12時) (レス) id: 9ee96bd060 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:流華 | 作成日時:2021年8月11日 13時