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「なんで?」


「んー・・・まぁ、うちにはピアノ担当はもういるし、俺じゃなくてもいいんだろ?」


本当に予想通りで嫌になる。
昔、うざったいくらいに傍にいた頃は、こうではなかった。
俺の隣にいた頃の北山は、もっと"俺が俺が"感が強くて我が強かった分、貪欲で。
あのギラギラ感も随分と鳴りを潜めてしまった。


「甲斐さんから、伝言を預かってるんだ。」


「甲斐さんから?」


怪訝な顔で北山が俺を見る。
真っ直ぐな瞳は、凪いだ海みたいに静かで。
恐らく北山が断るだろうと俺が告げると、甲斐さんは北山にコンセプトを伝えてほしいと言った。
そして、それを聞いた上でも北山が断ると言うのなら仕方ないと。


「今度の撮影のコンセプト【ブドワール】って言うんだ。」


「・・・ブド、ワール・・・」


「で、キーになるのは、ピアノだってさ。」


「っ!?、マジか・・・。」


只でさえ大きな瞳を目一杯見開いてこちらを見た後、北山は頭を抱えるように俯いた。
引き摺っていた眠気を一気に吹き飛ばす程の何かを感じたらしい。


「マジかー!うわー・・・マジかー・・・」


「北山?」


呟くようにブツブツと発せられる声は、もう俺に向けられたものではなく。
何かを信じられない気持ちでいる北山の確認のようなもので。


「なぁ、藤ヶ谷・・・」


「ん?」


「甲斐さんてさ、こだわり強かったよな?」


「何を今更。こだわりが強すぎる人だって知ってたから事務所の広報担当者が甲斐さんって聞いて微妙な顔したって話、マネから聞かなかった?」


「え?そうなの?」


「知らないの?」


「知らね。つーか、それならもう、確定、だよな。」


「なに?」


俺が問いかけると北山は、真っ直ぐに俺を見る。

その瞳は。
その瞳の奥に燻るものが、記憶の中の何かと重なる。


「俺、受けてもいい?」


「え、いや、いいけど、何で突然?」


「たぶんさ、いや、間違いなくさ、その撮影ん時のピアノ、すげぇ貴重なものだと思うんだわ。」


「貴重?」


「そ。1874年?5年?頃くらいのヤツで、博物館とまではいかなくてもイベントとか撮影とじゃないと、弾くことはもちろん見ることも出来ないピアノ。」


──俺・・・それを弾いてみたい。


そう言った北山の瞳は、遠くなってしまったと思っていた昔のような光彩を宿していた。
俺が、鬱陶しいほど傍にいた頃の…今よりも少しだけ我の強かった北山が、ひどく懐かしくて。



トクンッとひとつ、鼓動が鳴った。
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流華(プロフ) - さゆさん» さゆさん、こんにちは。コメントありがとうございます。表現と描写は、本当に気を遣っている部分なので、そこを誉めてくださると嬉しくて更に頑張ろうと思えます。活力をくださってありがとうございます。今後も頑張りますので、移行後もよろしくお願い致します。 (2021年9月17日 18時) (レス) id: 9ee96bd060 (このIDを非表示/違反報告)
流華(プロフ) - ユキさん» あははー。良いところで狙って切る癖は、今も健在です(笑)でも、ホントにこのお話はノリとか勢いで書き始めたところがあるので、そんな感じに軽いです(笑)上質と仰っていただけること、本当に嬉しいです♪♪今後もお付き合いくださいませー♪ (2021年9月17日 17時) (レス) id: 9ee96bd060 (このIDを非表示/違反報告)
さゆ(プロフ) - 言葉の遣い方がとても綺麗で、文字数が多いのに一言一句しっかりと目で追ってしまいます!本当に素敵です!移行先でも楽しみにしています! (2021年9月12日 14時) (レス) id: 4e568979a2 (このIDを非表示/違反報告)
ユキ(プロフ) - うわ!そこで移行ですか!!!笑 めっちゃ気になりますーー!上質なお話を読んでいたのに「面白いそー♪」って流華さんのノリの温度差に笑ってしまいました笑 続き楽しみにお待ちしてます☆ (2021年9月12日 13時) (レス) id: d4b3736ff0 (このIDを非表示/違反報告)
流華(プロフ) - sioriさん» sioriさーん♪♪にゃはは〜だって、狙って切ってますもん(笑)読み返してくれたんですか!?嬉しーです♪♪今回は伏線無しだから、謎とかも無いですけど楽しんでくれたら十分です♪sioriさんが読んでると気合いも入るので!!! (2021年9月12日 12時) (レス) id: 9ee96bd060 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:流華 | 作成日時:2021年8月11日 13時

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