その指先に愛を乞う

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「おはー。」


「おはよー。」


甲斐さんとの電話から三日後、レギュラー番組の収録で七人が全員揃った。
テレビ局での挨拶は、いつでも…例え夕方の入りであっても「おはよう」が基本だ。
Jr.の頃はそれに違和感を感じていたのに、いつのまにかその挨拶は身体に馴染んでしまっていた。
こんな時、人間はやっぱり慣れていく生き物だよなと感じてしまう。


「はよ。」


「おはよう、北山。」


Jr.だった昔は北山が来たら、こっちこっち!!!と自分の傍へと呼び寄せることが当たり前だった。
それからデビューして俺が北山を遮断した時には、距離の離れた俺と北山を不安そうに心配そうに見ていた他のメンバーも、そのうちそれが当たり前になった。
そして、思いきって歩み寄った時も、ぽつりぽつりと会話を始めた俺と北山をメンバーは驚きつつも好奇心の隠せないような顔で見ていたが、またそれも時間の経過と共に当たり前になっていった。

人は、慣れる。
良くも、悪くも。

だから今の俺と北山の距離感にも皆が慣れている。
俺達も他のメンバーもスタッフに至るまでもが、俺と北山の関係が表で見せるほど遠いものではないことを知っている。
こうして、楽屋で俺の座るソファの隣に北山が来ることも別段珍しいことではない。


「あのさ、藤ヶ谷･･･」


「ん？なに？」


ゆっくりと話し出すそのトーンは、北山がまだ覚醒しきってない証拠。
未だにスイッチが入りきっていない、テレビの中では見ることの出来ない北山だ。


「今度のお前が表紙の雑誌の話だけどさ。」


「ああ。」


「悪いけど、断ろうかと思ってる。」


こっちも、やっぱりか。

あの時、甲斐さんには伝えてある。
恐らく北山は、断るであろうことも。
"ピアノが弾ける"ことは、今のグループの中では千ちゃん･･･というのが、ファンの中でも定着しつつある。
中居さんの番組で、必死になって練習して体得していった千ちゃんの努力をメンバーはみんな知っていた。
先日の宣材Vを撮影した時の北山を見る限り、アイツのピアノは幼少期に相当基礎を叩き込まれているのだろう。
千ちゃんの努力を目の当たりにしていた北山が、実は千ちゃんよりも弾ける事実など表に出したがるわけがない。



いつの頃からか、北山は物わかりのいいお兄ちゃんになってしまったから。
弟を前に押し出して己の事は後回しにするようになってしまったから。

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