その指先に愛を乞う

漆黒の皇帝 ページ2

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都心から高速道路を使って二時間弱。
鎌倉の緑深き谷戸の中、荘厳なる空気が漂う趣ある洋風建築がある。
国の登録有形文化財であると同時に、様々なドラマや映画で豪邸として使われてきた旧宮家のお屋敷だ。
今日の衣装に着替え、撮影までの僅かな間に幾何学紋様の美しい庭を窓からぼんやりと眺めていた。
その美しいフランス式庭園の奥には、緑の影に隠されてほとんど見えないけれど純日本風の庵があるという。
洋風建築と和風建築が、生命力溢れる木々たちに囲まれて同じ敷地に立つ此処は、和洋折衷でありながらどちらも趣を壊すことなく美しく静謐であった。

不意にコツコツと近付いて来る足音が耳に響いた。
寄せ木細工のようなパーケットフローリングとレースアップシューズの革底が奏でる少し重めの足音。
振り返れば、玉が柔らかな笑顔で近付いてきた。


「やっぱガヤ、画になるねー。」


「玉だって、しっかり"王子様"だよ。」


お互いに、今日の出で立ちについて言葉を交わす。
格式高い洋館でメンバー全員が真っ白なフォーマルスタイルという非日常の装いをしている。
その中でも玉は、テールコートにホワイトタイという第一礼装で抜群のスタイルを更に魅力的に見せていた。


「ガヤのそれも良い感じだね。」


一方の俺は、ジャケットの前裾が水平にカットされた直線的なロングシルエットが特徴のフロックコートだ。
タキシードやモーニング、テールにフロックと、普通に生きていたとしたら結婚式くらいでしか着ない礼装。
しかもだ、先日読んだ小説によればタキシードとテールコートは夜会用だったはずで、こんな未だに太陽が中天にいるような時間帯に着るものでは無かったはずなのだが･･･。


「それにしても･･･王子様･･･ねぇ･･･」


10周年を迎えて、事務所の宣材写真を新しくするとの話が出た時、時代に合わせたのか宣材が写真ではなく映像でという話になった。
そこで北山が、その宣材Vを撮るにあたって依頼したい人がいると言い出した。
何でも、動画サイトで見つけた某アーティストのMVを撮った監督兼カメラマンで、北山はその動画がかなり気に入ったらしい。
事務所を通してその人に依頼をする様お願いをすると、広報担当は微妙な顔をしていたとマネージャーから聞かされて。
そして、指定されたのが此処でコンセプトは"王子様"だった。


今更、王子様･･･か･･･。

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