その指先に愛を乞う

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ゆっくりと、俺の手が動く。
俺の頭を抱き込む北山の背中に腕を回して、徐々に力を込めていった。
温かい、北山の身体。
気が付けば、しがみつくように強く抱き締めていた。

ふわり、ふわり、と頭を撫でられて。

再びポロリと零れ落ちる雫は、確かに遠く幼いあの日に繋がっていた。
あの日、あの頃、俺は確かにこの手を求めていた。


「っ、･･･、っ･･････。」


──すげぇじゃん、藤ヶ谷。
そう言って、頭をわしゃわしゃと撫でて誉めてくれた手。

──こうしたらもっと良くなるんじゃね？
そう言って、新しいアイデアを出して俺の行く道を指し示してくれた手。

──大丈夫、藤ヶ谷なら出来るよ。
そう言って、いつだって強く優しく俺の背中を押してくれた手。



三人兄弟の長男として育った俺に、初めて出来た甘えられる存在。
誰よりも全力で甘え倒した自覚はある。

その分、距離を取られた時の衝撃は大きかった。

背を向けられて振り返ることなく、そのまま遠くへ行ってしまう夢を見たのは一度や二度じゃない。
飛び起きて、現実を思い出して半分は夢じゃないことに落胆して。
そして、少し哀しくなった。

そんな夜を何度も･･･。


ぽん、ぽん、ぽん。


宥めるように慰めるように一定のリズムで叩かれる背中。
それに少しだけ落ち着いて、ゆっくりと腕の中から北山を見上げてみれば。
甘く優しい瞳が、琥珀色に輝いて俺を見下ろしていた。
絡む視線に瞳の温度が上がったように感じるのは、俺の願望だろうか。

そうだ、俺は。
俺は。

この琥珀の中に、囚われたいと確かにあの時。
柔らかなシーリングライトの光でキラキラと光る琥珀は、ひどく透き通って綺麗で。
吸い込まれそうな瞳に、見とれていた。
いや、魅入られていた。

だから、ゆっくりとその琥珀が近付いて来るのがわかっても、ただ見つめることしか出来なくて。
長い睫毛に縁取られた琥珀が、瞼に隠されて･･････
眦(まなじり)に落とされる柔らかな感触。



え─────･･･









ちゅ。








ドクンッ───────･･･


北山が、

俺の、

涙に、

キスを、

した───･･･？


あまりのことに驚いて涙が止まった。
思わず凝視する俺の視界の中で、北山は無意識だったのかハッとして気不味(きまず)そうに視線を逸らした。

淡くほんのりと、その耳殻が朱に染まる。
今の短い髪では隠しようがないその変化が、堪らなく愛しい。






もう、無理だ────･･･。

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