※ ページ34
.
「クラシックも知ってるはずだけどな、これとか・・・」
♪───────・・・
背中を向けたままの北山は、きっと今の俺の状況には気が付いていない。
弾むように響く音はひどく楽しそうだ。
「っ、・・・あ、これ・・・CM?」
「プレリュードの7番。胃薬のCMでずっと流れてるよな。」
必死に取り繕えば、声音だけでは気が付かないようで。
柔らかな返事が帰ってくる。
長閑な田舎の田園風景が似合いそうなこの曲は、恐らく日本人の八割以上が『ありがとう、いい薬です』のCMフレーズが出てきてしまうだろう。
その音に、俺の心は徐々に平静を取り戻していく。
「ねぇ、北山・・・」
「ん?」
「リクエスト、いい?」
「お、何か浮かんだのか?いいよ。」
不意に思い出す、あの日の北山と甲斐さんのやり取り。
あの日、確かに北山は。
「ラ・カンパネラ。」
「!?、 おまっ、それっ、リストじゃねぇかっ、」
「うん・・・。」
「しかも、よりにもよって・・・パガニーニかよ・・・」
前回の撮影の時に、ベーゼンドルファーにはリストが一番似合うと言っていた北山。
それから少し間を開けて、今日も甲斐さんとの仕事。
しかも、ピアノがあることは事前にわかっていた。
これだけの条件が揃っている。
北山が、あの北山が、何の準備もなく今日の撮影を迎えるわけがない。
十中八九、北山はリストを練習してきているはずだ。
それは、勘というよりは確信に近くて。
共に歩いてきた時間が、その思いを後押しする。
「しゃーねぇなぁ・・・。」
ぽつり、落とされた呟き。
響き渡るピアノの音の中でも、俺はその声を聞き逃したりしない。
そうして広げられる両腕。
背中を向けられていてもわかる。
その琥珀色の瞳は今、鮮やかに挑むようにキラキラと輝いているのだろう。
ふわり、銀の髪が揺れる。
そして。
♪────────・・・
すごいスピードでその右手が動き始める。
音のひとつひとつが粒のように際立つ高音。
かと思えば、力強く情熱的に伸びる低音。
キメの細かい音の強弱と緩急に魔力が宿るようで。
その指先から放たれる目には見えない音の魔力が、緩やかに俺を捕らえる。
それは、あの日と同じ感覚。
銀の髪が光に溶けて、輝きが増す。
とろけるような眼差しは、背後からは見えないのに。
その背中だけで、溢れるほどの妖しい色香を醸す。
.
ああ────・・・
北山の指先で、貴婦人が美しき愛の鐘を鳴らす。
.
634人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「Kis-My-Ft2」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
流華(プロフ) - さゆさん» さゆさん、こんにちは。コメントありがとうございます。表現と描写は、本当に気を遣っている部分なので、そこを誉めてくださると嬉しくて更に頑張ろうと思えます。活力をくださってありがとうございます。今後も頑張りますので、移行後もよろしくお願い致します。 (2021年9月17日 18時) (レス) id: 9ee96bd060 (このIDを非表示/違反報告)
流華(プロフ) - ユキさん» あははー。良いところで狙って切る癖は、今も健在です(笑)でも、ホントにこのお話はノリとか勢いで書き始めたところがあるので、そんな感じに軽いです(笑)上質と仰っていただけること、本当に嬉しいです♪♪今後もお付き合いくださいませー♪ (2021年9月17日 17時) (レス) id: 9ee96bd060 (このIDを非表示/違反報告)
さゆ(プロフ) - 言葉の遣い方がとても綺麗で、文字数が多いのに一言一句しっかりと目で追ってしまいます!本当に素敵です!移行先でも楽しみにしています! (2021年9月12日 14時) (レス) id: 4e568979a2 (このIDを非表示/違反報告)
ユキ(プロフ) - うわ!そこで移行ですか!!!笑 めっちゃ気になりますーー!上質なお話を読んでいたのに「面白いそー♪」って流華さんのノリの温度差に笑ってしまいました笑 続き楽しみにお待ちしてます☆ (2021年9月12日 13時) (レス) id: d4b3736ff0 (このIDを非表示/違反報告)
流華(プロフ) - sioriさん» sioriさーん♪♪にゃはは〜だって、狙って切ってますもん(笑)読み返してくれたんですか!?嬉しーです♪♪今回は伏線無しだから、謎とかも無いですけど楽しんでくれたら十分です♪sioriさんが読んでると気合いも入るので!!! (2021年9月12日 12時) (レス) id: 9ee96bd060 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:流華 | 作成日時:2021年8月11日 13時