桜の下で待ち合わせよう１１ ページ49
ーー“徹！”
Aちゃんと笑い合ったその時、ふと声が聞こえた。俺の名を呼ぶ、嫁さんの声が。
聞こえた方に顔を向ければ、屋上の白いドア。来た時に通ってきた場所。
ーー“パパ！”
また声が聞こえた。今度は息子の声。
不思議だけれど、胸に予感が過ぎった。今、あの扉をもう一度開ければ、未来に帰れるという、言いようのない予感。
及川｢ごめん。まだ話していたかったけど…もう、行かなきゃ｣
Aちゃんが、えっと戸惑いの声を漏らした。
A｢…また、会える？｣
心細そうな瞳を向けて問い掛けてくるAちゃんに後ろ髪を引かれる想いがするが、俺は大きく頷いてその場を離れた。
及川｢会えるよ｣
ここから三年後の春。キミとの思い出の場所。出逢えたその時には、落ちてくるキミをちゃんと受け止めるからさーー、
及川｢あの桜の下で待ち合わせよう｣
少女に大きく手を振ってから、ドアノブに手を掛けてぐるりと回すと、扉を開けた。その瞬間ーー、
ぶわあっと大きな風が吹く。その風に乗って、千切られた進路希望調査票の白い紙の吹雪が舞い上がり、俺の身体を不自然にぐるぐると取り囲んだ。
“おーい！徹ー！”
“パパー！”
白い紙吹雪の視界の中、二人の声は鮮明に聞こえた。帰ろう、と足を大きく前に踏み出したその時。
ぱっとまた視界が切り替わった。目の前には一面、薄紫色の花。よく知ったハカランダの木の花が、そこにはあった。
レイ｢パパみーっけ！｣
足元から聞こえてきた声に目を向ければ、そこにいたのはレイの姿で、ハカランダの木の上に立つ俺に向けて、おーい！と大きく両手を振っていた。
…って、え？？
及川｢何で俺、木の上にいるの！？｣
A｢徹ー！｣
もう一つの声に再び目線を落とすと、Aちゃんだった。中学生の姿じゃない。いつもの嫁さんの姿をしているAちゃん。
日常に戻って来れたことにほっと安堵した、その時、ぐらりと自分の重心が前に傾いた。
及川｢えっ、わっ！｣
バランスを取ろうとした時には間に合わず、俺の身体は宙に放り出されていた。
ズシャッ！！
数秒後、地面に吸い込まれるように転落する俺に、二人が慌てて駆け寄ってきた。
レイ｢だいじょうぶ？｣
A｢怪我してない？木に登るなんてはしゃぎすぎ！｣
及川｢うん、大丈夫。…けど、何回も登ってるAちゃんには言われたくないなぁ｣
A｢木じゃないですぅ！私が登ったのはフェンスですぅ！｣
桜の下で待ち合わせよう１２(完)→←桜の下で待ち合わせよう１０
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 62人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ハイキュー」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
スナック杏月(プロフ) - ゆんさん» ゆんさんいつもコメントありがとうございます！そして最後まで見届けて頂き本当に励みになりました！私もほっとしたような寂しいような心境です😢国見ちゃん×後輩ちゃん話でも最後まで飽きずに着いてきて頂けるようなお話を丁寧に綴っていけたらと思います🥰 (2023年1月28日 0時) (
レス) id: 011dd4e45f (このIDを非表示/違反報告)
ゆん(プロフ) - あぁぁ😭ついに一番好きなシリーズが完結してしまった😭💕嬉しいような寂しいような、、、でも次の国見ちゃんの話を楽しみに生きていきます🥺 (2023年1月27日 0時) (レス) id: d0dd043faf (このIDを非表示/違反報告)
スナック杏月(プロフ) - なぅさん» 遅れあけましておめでとう！今年はまったりと執筆していくので気長にお付き合いよろしくね🥲 (2023年1月12日 12時) (レス) id: 011dd4e45f (このIDを非表示/違反報告)
なぅ(プロフ) - 𝐻𝑎𝑝𝑝𝑦 𝑁𝑒𝑤 𝑌𝑒𝑎𝑟☆占い師及川愛す𝐟𝐨𝐫𝐞𝐯𝐞𝐫☆ (2023年1月2日 1時) (レス) @page43 id: 061659d46e (このIDを非表示/違反報告)
スナック杏月(プロフ) - おもちさん» おもちさんお久しぶりです！私も長らく占ツクを離れており、最近執筆再開をしました😢おかえりなさい！素敵な作品が多い中最初に開いてくれて嬉しいです😭温めてきた二人のお話を最後まで丁寧に綴っていきますので最後までお見届けよろしくお願いします！ (2022年12月24日 2時) (レス) id: 011dd4e45f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：スナック杏月 | 作成日時：2022年4月7日 1時
