【及川徹落ち】18000キロメートルの恋 5th【黒尾鉄朗】

試してみるか？ ページ6

A｢あったかい…｣


浴槽の半分より少ないくらい溜まったお湯にほっと息をつく。


黒尾｢…あったかいじゃねーよ｣


一緒に落ちた黒尾が色気たっぷりに濡れた髪をかきあげた。


黒尾｢びしょびしょなんだけど…どーやって帰れっつーんだ、｣


黒尾はふと私の顔…ではなくその下の方を見て、固まった。


黒尾｢…お前、黒って…えろ…｣

A｢へ…？あぁ…｣


黒尾の視線を辿ると、私の胸元、濡れたキャミソールからお気に入りの黒いレースのブラが透けていた。


黒尾｢何なのお前…人が我慢してやってんのに…｣

A｢がまん…？｣

黒尾｢…わざとやってんの？｣


黒尾が私に詰め寄り、湯船のお湯が揺れてちゃぷんと音を立てた。


黒尾｢俺に襲われてーの？｣


じりじりと端に追い詰められ、浴槽の壁に背中がピタリとくっついた。


A｢くろおは…“酔っ払い襲うほど飢えてない”んじゃなかったの…？｣

黒尾｢あー…そんなこと言ったことあったっけな…｣


黒尾は思い返すようにしてふっと小さく笑いながら、濡れた私の前髪をかき分けた。


黒尾｢確かに酔っ払い襲うほどは飢えてねーよ。でも、｣


私に触れる黒尾の手が頬へと降りてきて、それから唇へ滑る。
形を確かめるようにして、黒尾は私の唇を指先でそっとなぞってきた。


黒尾｢…お前にはすげー飢えてる｣


心臓がドクドクと速く打ち鳴らしているのはアルコールのせい？

…それとも、黒尾が見たことないくらい熱っぽい瞳をさせているから？

どっちなのかは分かんない。

分かんない…けど、この目を私は知ってる。

ーー徹が私に向けてくる目と、同じだ。


黒尾｢…なんて、これじゃあさっきのお前のクズみたいな先輩と一緒だな｣


黒尾は自嘲気味に笑うと、ぱっと私から離れて浴槽から上がろうと立ち上がった。

…先輩と、一緒…？


ーー“キモチーことして元カレのこと忘れよ？ね？“


ふと先輩に言われた言葉が頭をよぎって、私はゆっくりと口を開いた。


A｢…きもちーことしたらとーるを忘れられる…？｣

黒尾｢…は？｣

A｢わすれられたら…楽になれんのかな…｣


もう徹を想って泣くこともなくなる？
この息苦しさから開放される？

徹のいない未来はどうしたって前を向くことができないから、苦しくて、しんどくて、

ーー生き辛いんだ。


黒尾｢…試してみるか？｣


落ち着いた、静かな声。

…と対照的に、黒尾は獲物を見つめる肉食獣のように瞳をギラつかせていた。

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