【及川徹落ち】18000キロメートルの恋 5th【黒尾鉄朗】

お前が抱えていけ ページ39

▲▼及川 side


松川｢お前ら仲良くやんなさいよ｣

花巻｢あんまり岩泉に心配かけさせんな｣


懐かしい宮城の駅の改札前。
見送りに来てくれたマッキーとまっつんに、俺とAちゃんは頷いた。お互いの手を強く握って。

じゃあまたとそれぞれ別れの言葉を口にする。
二人に背を向け、先に岩ちゃんが改札をくぐって、その後を追った。

後ろを向くと、そこにはまだ改札をくぐっていないAちゃんが足を止めている姿があり、どうしたの？と声を掛ける。

離れることが名残惜しいだろうけど、もう電車がやって来てしまう。

少しの間そうして固まっていたAちゃんはくるりと振り返り、弾かれたようにして真っ直ぐにマッキーとまっつん目掛けて走り出して行く。
そして目一杯に広げた華奢な腕で、マッキーとまっつんにしがみついた。


A｢私、二人と友達になれて良かった！｣


驚いて目を丸くさせていた二人にAちゃんは強くそう言った。

思い返せば二人は俺よりも先にAちゃんに出会っていたんだよなぁ。
そんで、二人には俺の知らないAちゃんとの時間がある。


花巻｢…今生の別れでもねーのに大袈裟なやつ｣

松川｢また帰って来い。待ってるから｣


照れ臭そうな二人の笑顔からAちゃんを大切に想う気持ちが伝わってきて、自然とこちらまで頬が緩んだ。


岩泉｢そろそろ時間だぞ｣


我が子を見守る親のように優しげに目を細めていた岩ちゃんがそう呼び掛け、Aちゃんは、ほーい、と軽い返事をして改札をくぐり抜けてくる。

太陽のような笑顔で二人に大きく手を振るAちゃんと手を繋ぎながら、俺達は別れた。


岩泉｢やっと肩の荷降りたわ｣


電車に乗り込んで早々、Aちゃんが電車の揺れの気持ちよさに俺の肩に頭を預けて寝こけると、岩ちゃんがそう言いながら長く息をついた。


及川｢…うん。ごめんね岩ちゃん｣

岩泉｢おー。もう俺に任せんなよ。覚悟決めたんなら、ちゃんとお前がこいつのこと抱えていけ｣


岩ちゃんは強い口調で言うと、気持ちよさそうに寝息を立てるAちゃんを見やった。


岩泉｢…なぁ、黒尾みてーなやつ、これからも出てくるぞ｣

及川｢…うん｣

岩泉｢Aとちゃんと話し合えよ。婚約したから大丈夫って慢心してこのまま帰ったりすんじゃねーよ｣

及川｢ーーうん。分かってる｣


明日になったら俺はアルゼンチンへと帰る。

その前に、俺達は話さなきゃいけない。
同じことが起きないように。

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