【及川徹落ち】18000キロメートルの恋 5th【黒尾鉄朗】

天国にするか地獄にするか ページ30

バカになる。
全て取っ払って、後先考えずに動く。

そうした時、私はどうしたいの？
私は何を望んでいるの？

…なんて、そんなの問いかけるまでもない。

分かっている。
最初からそれだけだった。

ーー私は、徹に会いたい。

会いたい。本当は手放したくなんかなかったんだ。
このまま別れたくなんかなかった。
すごく自分勝手だけど、私の望みは徹の隣で歩くこと、ただそれだけだった。

フェンスを登り切って、見下ろす。
いつもこの高さが怖くて足が竦んでいた。

…戻れ。

ここに立っていた、あの頃の私に戻れ。

積み重ねてきた徹との幸せな時間が私の背中を押してくれる。
壁を越えろと、言ってくる。

理解のある彼女の皮なんて、綺麗事なんて捨てる。
徹と本気でぶつかる。
迷わずひたむきに前だけ向いていた、あの頃の私のように。

波に負けるな。
いつ崩れるか分からない砂の城でもいい。
一分一秒でも長く徹のそばにいたい。

ーーここからの未来を天国にするか地獄にするかは私の行動次第だ。

奮い立て。自分が嫌だと思ったら自分の力でなんとかするんだ。
そうやってあの頃の私は自分で行動していたでしょ。

頬に伝う涙を強く拭い取る。
フェンスのギリギリまで足を外に出す。

ーー飛べる、今なら怖くない。

飛び降りようとした、その瞬間ーー、


及川｢Aちゃん…！！｣


呼ぶ声に胸が音を立てて大きく震えた。

フェンスから数メートル先の下、そこにいたのは、会いたくて会いたくて仕方がなかった徹。


A｢と、おる…？｣


…夢？幻？なんで？
どうして徹がここにいるの？

ありきたりな疑問だけを浮かばせた頭はそのまま思考を停止する。

手が、足が、全身が震え出す。


及川｢…会いたかった｣


微笑みながら、泣きそうに目を細める徹の姿に胸がぎゅっと締め付けられた。


A｢私も徹に、｣


会いたかったんだ。

そう言おうとした瞬間、強い風に煽られ、足元がふらつく。

あ、と自分の口から間の抜けた声が漏れたと思った時にはもう、私の身体は宙に放り出されていた。

徹が私の名前を呼びながら、必死な顔をして走ってくる。
ふわふわと舞う雪を追い越して、私の身体は落ちていく。
徹が私を受け止めようと両手を伸ばす。

ーーが。


ぼふっ！！


徹の数歩先で受け止められることなく、私の身体は雪に埋まった。


及川｢Aちゃん！！｣


徹が駆け寄ってくる。
私の手を掴むなり、引っ張って、雪まみれの私の身体を胸に抱き寄せた。

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