【及川徹落ち】18000キロメートルの恋 5th【黒尾鉄朗】

幸せだった時間を取り戻そう ページ25

▲▼及川 side


ーー空っぽ？抜け殻？

まるで想像がつかなかった。

知らない。岩ちゃんからは聞いてない。
心配すんな俺が付いててやるからって、ただそれだけしか。

…そんな。だって俺はAちゃんの笑顔を奪いたくなくて手放したのに。どうして。


真夜『及川先輩は力ずくでも縋りついてでも引き留めるべきだった』

及川｢そんな…こと、言われたってもう…｣

真夜『遅くなんかない』


ぴしゃりと声が飛び、二つ年下の女の子相手に気圧されて、俺は戸惑う。
真夜ちゃんは俺の言葉の先を見透かしていた。


真夜『ごちゃごちゃ考えてる時間あるなら動けばいいでしょ。このまま何もしないで一生引きずるなんてしたらホントに及川先輩はどうしようもないバカだわ』


乱暴な言い方で真夜ちゃんは言う。
それから、思い出したようにタメ口からいつもの敬語の、淡々とした口調に戻った。


真夜『“会いたい“って泣いてました』


心臓が大きく鳴った。

会いたいって思ってくれてる？
Aちゃんも？

絶えず苦しめていた感情や憤りが瞬間的に消えていくのを感じた。



真夜『その一言だけで動くには充分じゃないですか？』


ーー充分だ。

会いたいって思ってくれている。
それだけで充分だった。

奥歯を噛んだ。
乾いた目の端に熱いものが込み上げて、視界を濡らす。


真夜『それでも及川先輩はそうやってそこでいつまでも立ち止まってますか？』

及川｢…ない、しない…っ、｣

真夜『…え？もしかして泣いてます？』


泣かないでもらっていいですか。ゴリラ先輩の泣き声なんて聞きたくないんで。つーかキモいんですけど。耳腐りそうなんですけど。
そう電話口で淡々と毒を吐く真夜ちゃんに、泣きながら笑ってしまった。


及川｢ありがとう…｣

真夜『次はありませんからね』


うん、と返事をしながら手の甲で涙を拭う。
心は決まった。

目を瞑ると浮かぶのはいつもAちゃんの顔で、Aちゃんは真っ直ぐこっちを見ながら温かく笑っていて、その度に俺は苦しくなる。
夢で会えば会うほどいても立ってもいられなくなるんだ。

ーーだから、もう一度。

今度はちゃんと、あの子ととことん向き合おう。
幸せだった時間を取り戻そう。

迷いはもう、ない。

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