いつかの未来 ページ29
いつも喧嘩ばかりして素直になれない真夜ちゃんと国見ちゃん達の方がよっぽど心が通じ合っていると思う。
これまでバランスを取っていたはずの秤が鈍い音を立てて傾いているようだった。
好き合っているのに私達はどこか噛み合わないまま、残りの時間を過ごし、今日という日を迎えてしまった。
ーー明日私は、アルゼンチンを発つ。
絶望的な気分で朝日を浴びながらいつものようにキッチンに立ってコーヒーを淹れる。
くるりくるり。
円を描きながらお湯を注ぐ。ゆっくりと、静かに。
こうやって徹にコーヒーを淹れるのも残り数回か、と息をつく。
怖い。
不安で、焦りだけが募っていく。
及川「Aちゃん!」
急に後ろから抱きすくめられ、わっ!と声を出して驚いた。
びっくりした…と零すと、徹は底抜けに明るい表情で笑った。
及川「お花見しよ」
A「お花見…?」
及川「ハカランダ見に行こう」
A「ハクナマタタ…?」
及川「…ライオ〇キングじゃないよ」
▲▼
A「…綺麗」
徹に連れて来られ、やってきた公園。
いくつも植えられたハカランダという木には薄紫色の花がちらほらと咲いていた。
ハカランダはアルゼンチンの桜なんだと徹は教えてくれた。
及川「満開になるのは来月なんだ。まだ3分咲きくらいだねー」
…そっか。満開になる頃には私はもうここにはいないんだ。
及川「…去年ね、一人でここに見に来たんだ」
A「そうなの?」
及川「うん。日本の桜とは違うけど、このハカランダを見て、Aちゃんに出会った時のこと思い出してた」
徹は想いを馳せるようにして空を仰いだ。
その横顔が酷く頼りなく見えて、私はそっと徹に寄り添うと、自分の手を絡ませた。
及川「いやぁ…でもまさか、」
A「ん?」
及川「始業式から遅刻かましてパンツ丸見えでフェンスの上登って飛び降りてくる変な子と、今こうなってるとはねぇ…」
徹は私を見下ろして、その時のことを思い出すようにしてクスリと笑った。
及川「…ここね、ハカランダ並木になってて見頃のシーズンは本当に綺麗なんだよ。いつか一緒に満開になってるところ見に来ようね」
不安は消えない。
先は暗くて見えない。
それでも、徹とずっと一緒にいる未来を掴むためには歩いて行かなきゃいけない。
A「…うん。一緒にここを歩こう」
徹のこの手の温度を忘れないようにと強く握って、笑った。
徹が好きだと言った、太陽みたいな笑顔で。
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杏月(プロフ) - しゅが〜さん» ずっと書きたかったシーンへと着々とフラグを立てていっております。是非たくさん妄想しまくって楽しみにして頂けるとバチクソに嬉しいです!いつも嬉しいコメントありがとうございます! (2021年8月18日 9時) (レス) id: 04a827e35d (このIDを非表示/違反報告)
杏月(プロフ) - ミキさん» 三角関係を書くのは楽しいですが少々心苦しいです…。岩ちゃんみたいな友達いたらそっちに揺らぎそうですよね。作者だったら岩ちゃんルート入りますね!最後はハッピーエンドを迎えられるように書いて行きたいと思っております!コメントありがとうございました! (2021年8月18日 9時) (レス) id: 04a827e35d (このIDを非表示/違反報告)
しゅが〜 - クリスマス、、、!何か起こるかな、、、。うわぁ〜楽しみ過ぎますね!及川さんと何かあるのか、クロと何かあるのか、、、もしかしたら何も起こらないかもしれない、、、。勝手に一人で想像して楽しんでますw (2021年8月17日 23時) (レス) id: 8796ade977 (このIDを非表示/違反報告)
ミキ(プロフ) - 及川さんもクロもどっちにも幸せになって欲しい…あと岩ちゃんみたいなお友達私も欲しいです。アルゼンチンに行ってやっと会えたのにすれ違ってしまって…なんだか切なくなります(..)とても面白いです!更新楽しみにしています!! (2021年8月17日 21時) (レス) id: bc172cdec5 (このIDを非表示/違反報告)
杏月(プロフ) - いちごミルクさん» 神だなんて恐れ多すぎます…!人たらし及川さんと食えない黒尾くんと鈍感夢主ちゃんの三角関係がどうなって行くか是非見届けて頂けると嬉しいです!励みになるコメントありがとうございます! (2021年8月17日 19時) (レス) id: 04a827e35d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:スナック杏月 | 作成日時:2021年8月3日 13時