【及川徹落ち】18000キロメートルの恋 2nd【黒尾鉄朗】

どんなイメージだよ ページ29

あいつは、夜の１１時を回った時に現れた。

その日はいつものように大学の講義を受けた後、バイトに行っていた。
それからバイトが終わって帰宅すると、真っ先にシャワーを浴びに浴室向かう。

徹は今日チームメイトとお昼ご飯を食べるらしく、寝落ち通話は残念ながらお預けだ。


A｢…勉強するかー｣


ＧＷは羽を伸ばして遊びすぎた。
全く勉強してない。やばい。

普段使わないと言語ってどんどん忘れていく。
馴染みがない言語だとそれは尚更で、どんな達人でもそれは同じ。

よし。復習を兼ねてどれだけ覚えてるか見直そう。

そう意気込んで浴室を出た、その時のことだった。


カサカサカサ、


キッチン前の床を歩く黒いあいつ。

それを視界に捉えると、背筋にすうっと冷たい物が通っていく感覚がした。
顔から血の気が引いていく。


A｢ひ…っ、｣


自分の口から小さく悲鳴が上がった。

一人暮らしを始めて一回も出たことがなかったのに。

あいつを見失わないよう位置を確認しながら、殺虫スプレーを取りに行く。
震える手でそれを持つと、じりじりとあいつに近付いた。

そしてスプレーを噴射させようとノズルをあいつに向けた、その時。


ぶーーーん。


宙を舞った。あいつが。


A｢〜〜っ！！｣


声にならない叫びをあげて撤退する。
机に置いていたスマホに飛びついて、岩泉に通話を掛けた。

…早く出て。早く出て、岩泉。
お願い。無理だ。どうしても無理だ。

何コールかした後、通話の呼び出し音が止まる。
はやる気持ちを抑えきれずに私は声を上げた。


A｢ごごごごごき、ごきぶり！！｣

黒尾『…は？何？イタズラ電話か？』


聞こえてきた声は岩泉ではなかった。

耳からスマホを離して画面を見ると黒尾の名前が表示されていて、掛け間違えたんだと気がついた。
けど、どうでもいい。

それどころじゃない…！


A｢黒尾…助けて！！緊急事態！！｣

黒尾『…緊急って何が？』

A｢ご…ゴキブリが出て…、助けてくださいお願いします今すぐ来てください何でもしますのでどうか黒尾様お願いしま、｣

黒尾『お前虫苦手なんだ。ゴキブリ鷲掴みにしてそうなイメージだったわ』

A｢どんなイメージだよ！！鳥肌立つわ！！｣

黒尾『寧ろ仲良く共同生活送ってそう』

A｢するわけねぇだろ！！つーかそういうのいいからマジで早く来て頼むからもう無理泣きそう、｣

黒尾『分かった分かった、今から行ってやるから待ってろ』

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