【国見英】賽は遥か遠くにぶん投げる 2nd【青城】

本当の本気 ページ2

▲▼国見 side


ぐさり。

矢巾さんの言葉が真っ直ぐに胸に突き刺さる。
短く息を止めて、ほとんど反射的に顔を伏せた。


矢巾｢本気じゃないんだったら出てくんなよバーカ｣


軽くぺしんと頭を叩かれる。

矢巾さんは本気で怒りながらも、じゃあまた朝練でな、と俺に声を掛けて、階段を降りて行った。

…良い人だ、矢巾さんは。だからこそちょっと胸にクる。
これがどうでもいい人が相手だったら何言われたってどうでもいいんだけど。


バサリ。


ふと、何かが落ちる音がして顔を上げる。
するとそこには、その場にしゃがみ込んで冊子のようなものを拾う朝陽先輩の姿があった。


朝陽｢え…えへ。修羅場見ちまった…｣


目が合うと、少し気まずそうに朝陽先輩はへらりと笑った。


国見｢いつから見てたんですか？｣

朝陽｢二人がここに来た時から｣


最初からかと息をついたその時、朝陽先輩がてくてくと歩いて来て、よしよしと俺の頭を撫でた。頑張って背伸びをしながら。


朝陽｢国見ちゃんには国見ちゃんの好きがあるんだもんね｣


胸の中につっかえているものを取り払われたような心地になった。

この人はどうしてこうも人の心の掬い取り方が上手いのか。
…変な人だ、本当に。

柔らかく、温かい。でも芯がしっかりとしている。
いつも俺に可愛いだの何だのと言いながら変態の如くハァハァと涎を垂らしてくるような人だけど、嫌いじゃない。


国見｢…朝陽先輩｣

朝陽｢なーに？｣

国見｢本気って何なんですか？｣

朝陽｢へ、｣

国見｢本気にならないとダメなんですか？｣


まるで呼吸するかのようにするりと出てきた言葉に、朝陽先輩は少し目を丸くさせた。
それから一拍置いて微笑むと、ゆるゆると首を横に振る。


朝陽｢んーん、そんなことないよ｣


俺の頭にあった朝陽先輩の手が背中へと降りてきて、ぽんぽんと慰めるように叩いた。


朝陽｢本気ってポジティブな言葉の印象あるけどさ、実際そうでもなくない？本気になりすぎると、冷静さをかいて周りが見えなくなることがあるし｣

国見｢…そうですね｣

朝陽｢難しいよね。本気のレベルも人それぞれだしさぁ…って、ごめん。これじゃ答えになってないね。えーっとね、つまり…｣


朝陽先輩は視線を宙に這わせる。
そうして頭の中で言葉を纏めるようにして考えを巡らせると考えが固まったのか、俺に顔を向けた。


朝陽｢気づいたら本気になってるのが本当の本気だと思うな！｣

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