09.シアワセモノ ページ9
「やっほー!」
インターホンが鳴る。モニターにはマフラーをぐるぐる巻きにしている海人。
「はい、これ。廉の分もあるよ」
「え」
「ん?どした?」
ドアを開ければ、「早く入れて〜」と猫のようにすり入る。差し出された小さな箱。
「しょおのとこのケーキ、Aも廉も好きだったでしょ?」
「あ、…そういうことね」
廉は今家にいないけど、海人にも見えているのかと思ってギクリとした。そんな心配は要らず、ただ海人は廉の誕生日として持ってきてくれた。
「ありがとう、廉も喜ぶと思うよ」
「だよね〜廉オレのこと大好きだからな〜俺の分も入ってるから後で食べよ」
スタスタと慣れたように海人が中に入っていく。廉の誕生日が終われば、私たちは毎年期末考査に追われる。
明日から始まる。ケーキを食べている余裕なんてないけど、海人らしい。
「ってあれ、Aもしょおのとこ行ったんだ」
「あぁ…廉の誕生日にケーキ作ってもらいに」
「そっかそっか。…廉は幸せ者だね、みんなにお祝いされて」
写真立てを海人が手に取る。写真を見つめて呟いた。
「れん、おめでと」
ツンと込み上げる。きっと今私の口元、への字なんだろうな。
海人もそれを察して、コトンと写真立てを元の場所に戻すと、「さぁ勉強勉強!」と参考書を広げた。
・
・
「どうだった?」
「平均よりチョイ上ぐらい?」
「一安心。今度からは自分でコツコツ勉強してください」
「やだよーAの家の偵察も兼ねてるんだから!」
考査終わり。教室で筆記用具を片付けていると、トタトタと近付いてきた海人。顔はにんまり。
徹夜で勉強したせいで眠気に襲われているけど、オールして頑張ったお陰で何とか乗り切った。
「偵察ってなに?」
「他のオトコの影がないか!」
「余計なお世話!」
「Aに何かあったら廉に顔向けできないから!夢に出てきて呪われそうだし」
想像しただけでこわい〜!と腕を擦りながら肩を縮める海人。言葉に出さなくても、海人は私と同じ気持ちだと思う。
廉の隣にいる私が当たり前だし、私には廉が必要だと思っている。同じ気持ちで、否定されないから、海人といるのが心地いい。
廉は、昨日帰ってこなかった。
*
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作者名:みう | 作成日時:2023年12月5日 21時