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急いで部屋に戻ると、
彼は座って待っていて、
待たせてしまった罪悪感を感じた。

少し先を歩く樹くんに続いて歩くと
レジを素通りして扉を開けた。

お会計は？顔パス？ツケなの？なんて変に焦って、
(芸能人とご飯なんて行ったことないし)
店員さんに確認すると、すでに頂いておりますと。

もう今後会わないのに、それでいて5個も年下の子に払わせるわけには行かない。

ごちそうさまでしたと店員さんに伝え
田中さん…樹くんが開けて待ってくれている扉を出た

路上で、払わせて→やだのやりとりをしていると
樹くんが、車で送らせて欲しいと言ってくれた。

頭はやめたほうがいいと言ってる。
わかってる。
けど、心が、
まだあともう少し一緒にとわがままを言う。

彼の言葉も駆け引き上手で、
断りにくい、でも嫌な気のしない言葉で伝えてくれる

ふいに
『俺がもう少しAさんと一緒に居たくて。
　わがまま聞いてもらえませんか？』

なんて言われて、私の心と全く同じことを言ってくれた嬉しさで、承諾をした。

明らかに少しテンションが上がった様子を
可愛いなって見てたら、樹くんは徐ろに
フードとメガネをして。

あぁ、そうだよね。。
バレたらまずいんだった。

と、さっきまで感じた幸せがスッと崩れた気がした。
住む世界が違う人なんだと、痛感した。

先に歩き出した彼から
数歩遅れて歩き出す。

突然彼が振り返って
慌ててこちらにくる

お腹痛い？なんて聞かれて、
なんのことかと思ったけど、
あ、この距離のことかと理解して

ーー隣にいて写真とか撮られたら責任取れない

みたいな事を伝えた。

少し間があった後で

突然、樹くんが私の右手を掴んだ。

今日何度目かの経験。

それだけじゃなく、手を繋いできた。

びっくりして声を出せないまま
彼に引かれるように歩き出した。

『大丈夫だから、信じて』

メガネ越しでも伝わる真剣な目線を感じ
黙ってついて歩いた。

その言葉に、
彼とのこれからを信じてみてもいいんじゃないかな、なんて甘い考えが過ぎったけど、慌てて消して。

コート着そびれた、なんて手を引かれながら
肌寒さを感じた時、樹くんはわたしの手ごと
自分のパーカーのポケットに仕舞い込んだ。

じんわりとあたたかくて
ここから離れたくなくて

ポケットの中でも繋がれてる彼の手を
無意識にきゅっと握り返してしまった。

すぐに彼は答えるように握り返してくれた。