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翡翠はあのあと、ハンカチを公園の水道で濡らし、太宰をベンチに誘導した後、額に当てるように云ってからそれを渡した。太宰は礼を云って濡れたハンカチを額に当てる。まあまあ赤く腫れていた。地味に痛そうだ。
翡翠は人一人分のスペースを開けて彼の隣に座った。お互い、端と端同士に座っているような状態だ。
太宰は横目で彼女の様子を見る。翡翠は太宰を一切見ないで、何処を見ているのか判らないが遠くを見ていた。
太宰はその横顔と探偵社で初めて見た彼女の顔を思い浮かべて、酷い気まずさを感じた。
何か云おうと口を開いた時、翡翠が先に声を出した。
「太宰、どうして公園に居たんだ。しかも、あんな茂みの」
彼女の声は普段のようなキレのある感じではなく、静かで、湖面のような声音だった。太宰はまたもや初めて聞く彼女の声音に若干戸惑いながらも、それをあまり表に出さず質問に答えた。
「いやあ、君が遅くまで探偵社に居ると聞いてね。心配で影ながら様子を見守っていたのだよ」
ニコリといつもの調子で云うと、彼女が淡々とした声で云った。
「暴力女を襲おうと考える物好きなんて、早々居ないと思うぞ」
太宰は言葉に詰まった。自分が云った言葉を使われると、何を云えば善いかすぐには思いつかなかった。
「昼間の事を気にしていたのか？それとも、周りの奴等に色々と云われて、仕方なく見に来たのか？」
彼女が核心を衝くと、太宰は何も云わなかった。
彼女が廊下に出て、乱歩に事情を教えられると、周りからかなりの非難の目を浴びた。特に、女性陣と国木田。正座をさせられて三十分以上、説教をされた。常なら脚が痛いと、途中で云っていたが、流石に今回は自分に落ち度があり、彼にしては珍しく甘んじて受けた。
だが、一つだけ訂正があった。
説教が終わった後、国木田が携帯を見てみると、翡翠からメールが届いており、内容を確認すると、彼女が出てくるまで待っていようかと考えたその時、乱歩に止められた。国木田は乱歩に理由を問いかけたが、いいから、と強く云われてしまい、納得できずともそれに従った。そして、他の面々には気づかれない程度に乱歩は太宰に視線を向けた。太宰はそれだけで、彼の意図が判り、小さく頷いた。
彼女が業務を終え、社から出てくるのを太宰は隠れて見ていた。彼女が家に着くまで見守る為、着いて行ってたら公園にまで来ていた。
そして、現状がこれである。
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作者名：リエン | 作成日時：2020年4月10日 3時
